窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)の中にカーボンナノチューブ(CNT)が入った複層の構造体に光を照射すると、電子の抜け道ができてチューブ全体が速く振動する現象を、筑波大学などのグループが発見した。単独のBNNTに照射するより低いエネルギーの光で起き、電子のエネルギーが速やかに熱へと変わっていた。将来的には電子デバイスのスイッチングや排熱での応用が期待できる。
グラフェンやCNTに代表される1原子ほどの厚さしかない材料を層状、筒状に重ねた物質を「ファンデルワールスヘテロ構造体」と呼ぶ。筑波大学数理物質系の羽田真毅准教授(物理工学)によると、同構造体は半導体になったり超伝導体になったりすることが注目され、ここ10年ほどは機能の発現メカニズムを原子や電子レベルで解明する研究が増えているという。
羽田准教授らはまず、CNTとBNNTそれぞれの性質を観測した。CNTは波長1200ナノメートル(ナノは10億分の1)以上の赤外光(エネルギーは1電子ボルト以下)を当てると吸収して振動を起こした。一方、BNNTは波長205ナノメートルの遠紫外光(6電子ボルト)を当てなければ振動しなかった。
そして、内径6ナノメートルのBNNTに外径5ナノメートルのCNTを入れた複層構造体に、赤外光と遠紫外光の間にある波長400ナノメートルの近紫外光(3.1電子ボルト)を当てたところ、CNTだけでなくBNNTも振動し、その振動速度も速くなることを発見した。原子や分子の変化を立体的に1兆分の1秒レベルで直接的に観測できる「超高速時間分解電子線回折」で観察した。
単独のBNNTより低いエネルギーの光で振動が起きる理由を、光を当てることによって生じる分子構造や電子構造の変化を10兆分の1秒レベルで捉える「超光速過渡透過率測定」で調べた。その結果、電子がCNTからBNNTへ移動し、その電子のエネルギーが熱に変化することが分かった。CNTとBNNTの空隙が電子の抜け道になっていた。
羽田准教授は「物質が重なってできた電子の移動チャネルによって、CNTのような物質にエネルギーの低い光を当てることで、BNNTのようなより高いエネルギーの光を必要とする物質を駆動できる可能性がある」と話す。熱エネルギーの超高速輸送や超高速の光デバイス開発、光照射で生じた電子などの超高速操作など、各種新技術への応用につながる可能性があるという。
研究は、仏レンヌ大学や岡山大学、広島工業大学などと共同で、科学技術振興機構の創発的研究支援事業や日本学術振興会の科学研究費助成事業などの支援を受けて行った。成果は、英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に5月30日に掲載された。
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