北海道大学(北大)と大阪大学(阪大)は7月2日、共同研究チームが開発した電気的に熱流の流れやすさを切替える熱制御技術「熱トランジスタ」の熱伝導率制御幅を、1.5倍となる4.3W/mK(=オンの熱伝導率6.0W/mK・オフの熱伝導率1.7W/mK)まで高性能化することに成功したと共同で発表した。
同成果は、北大 電子科学研究所の太田裕道教授、阪大 産業科学研究所の李好博助教、同・田中秀和教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、さまざまな分野の基礎から応用までを扱う学際的な学術誌「Advanced Science」に掲載された。
電子や光のように、熱を自在に操ることができるようになれば、解決すべきエネルギー問題の1つである廃熱の有効利用が可能になることから、電気的に電流の流れやすさを切替える電界効果トランジスタのように、電気的に熱流の流れやすさを切替える熱トランジスタが、熱制御技術の1つとして注目されている。そうした中、研究チームは2023年2月に全固体熱トランジスタを実現した。その時の熱トランジスタの性能は、熱伝導率制御幅(=オンの熱伝導率3.8W/mK-オフの熱伝導率0.95W/mK)が狭く(2.85W/mK)、幅広い熱流制御には適していなかったという。
その後、研究チームは2023年5月になって、電気を良く通す物質が熱も良く通し、熱伝導率制御幅の拡大に有効であることを見出す。しかし、候補物質を見つけることがなかなかできなかったが、電気を良く通す性質を示すランタンとニッケルの酸化物「LaNiO3」が、熱トランジスタの活性層としてポテンシャルが高いことを発見。そこで今回の研究では、LaNiO3を活性層とする熱トランジスタを作製し、電気化学的にオン状態(酸化状態)とオフ状態(還元状態)に切替えて熱伝導率の変化を調べることにしたとする。
まず、電気化学的に還元・酸化した後のLaNiO3の結晶格子変化が調べられた。すると、酸化状態(結晶格子の大きさ:0.3844nm)から還元すると徐々に結晶が膨張し(0.3868nm)、その後、酸化すると元の結晶格子の大きさ(0.3844nm)に戻ることが確認されたとした。この還元・酸化操作は7回繰り返されたが、結晶格子の大きさが可逆的に変化して、結晶構造が壊れることはなかったという。
次に、酸化状態と還元状態の熱伝導率が計測された結果、酸化状態では平均6.0W/mK、還元状態では平均1.7W/mKであることが確かめられた(熱伝導率制御幅は4.3W/mK)。熱伝導率の変化も可逆的であり、うまく切替えができているといえるという。過去に報告された熱伝導率制御幅と今回の研究の結果が比較されたところ、全固体熱トランジスタの熱伝導率制御幅としては、ストロンチウムとコバルトの酸化物「SrCoOx」を活性層として用いた従来の熱トランジスタと比較して、1.5倍の熱伝導率制御幅が得られることが明らかにされた。
冒頭でも述べたように、電子や光のように熱を自在に操ることが可能になれば、今後、解決すべきエネルギー問題の1つである廃熱の有効利用が実現できる。今回の研究成果により、熱トランジスタの性能が高められたことで、将来の熱制御技術の実現に向けて大きく前進したといえるとしている。