東北大学は7月2日、2023年度の全学教育講義「学問論演習」(2023年10月~2024年1月)において歴史資料レスキューの実習を行い、収集家・郷土史家であった故・梅津幸次郎氏(1903~77)のコレクションに関する調査を実施。2023年11月6日、約20点の金具類や瓦を確認し、その中には「昭和20年7月10日に戦災焼失した仙台城大手門の金具である」旨が記された箱に収められた金具類や、焼損・変形した物品が含まれていたと発表した。

同成果は、東北大 災害科学国際研究所の佐藤大介准教授らの研究チームによるもの。

佐藤准教授らは、故・梅津幸次郎氏のコレクションに関する調査から、上述したように金具類や、焼損・変形した物品を確認し、現所蔵者の協力を得て、物品の採寸など、さらなる調査を進めることにしたという。

また仙台市は現在、「史跡仙台城跡整備基本計画」(2021年策定)に基づき、将来の仙台城大手門復元に向けた調査を実施中だ。大手門関連文献として、明治中期の旧陸軍による修理記録、ならびに、昭和初年の仙台高等工業専門学校(東北大学の前身の1つ)の調査記録を把握していたという(いずれも個人所有)。

そして2024年5月30日、佐藤准教授らと仙台市教育委員会文化財課が共同で調査を実施し、金具類の現物と、仙台市が把握していた文献に含まれている旧仙台城大手門の金具類の模写の照合が行われた。その結果、今回確認された金具類は、仙台城大手門に使われていた実物だったと結論付けられたという。

  • 「通称大手門・昭和廿年戦災焼失」と記された箱の蓋書き

    (左)「通称大手門・昭和廿年戦災焼失」と記された箱の蓋書き。(右)箱の中に収められていた釘隠し(右)、釘3種類(左)、飾り金具(上)(出所:東北大プレスリリースPDF)

また同日、実習に参加していた学生により、梅津氏コレクションからさらに菊の紋の拓本およびその説明書きからなる史料が発見された。拓本は木製と見られる大きな菊の紋のもので、その説明は大正元(1912)年11月に書かれたとみられ、「明治20年代末に大手門の解体が検討された際、当時の第二師団長の働きかけで解体は回避され、さらに門に新たに菊と桐の紋を付すことになった」や、「新たに大手門に取り付けた菊の紋は、かつて仙台城本丸の建物に飾られ、今は青葉神社に保管されている紋を模して作成した」旨が記されていたとする。

  • 拓本と説明書き

    拓本と説明書き(出所:東北大プレスリリースPDF)

戦前に撮影された画像から、仙台城大手門には桐や菊の紋が付されていたことを確認することができる。今回発見された新史料により、少なくともその一部は、江戸時代初期の創建時ではなく、明治時代に取り付けられたものである可能性が高まったとした。

  • 今回の発見と仙台城大手門の関連

    今回の発見と仙台城大手門の関連(写真は戦前に撮影されたもの。写真出典:『仙台市史 特別編7 城館』仙台市2006年、380ページ/原資料・仙台市博物館所蔵)(出所:東北大プレスリリースPDF)

なお本件の意義は、主に(1)仙台城大手門復元や仙台城研究の進展に貢献、(2)「地域に開かれた大学」としての活動の有用性、(3)各地の歴史再生の手がかりとなる「梅津幸次郎コレクション」の3点だという。

(1)は、今回発見された金具類や新史料により、大手門各部の金具の形状・大きさなどをより正確に把握することが可能になったことが大きい。金具が取り付けられていた柱の寸法や、江戸時代当時の仙台城大手門外観の正確な復元に資する有力な史料となるとする。併せて、金具そのものの材質調査や、関連記録との照合により、大手門創建当時の冶金技術、建設に際しての材料の調達など、仙台城に関する新たな歴史を知る手がかりともなるとした。

(2)は、東北大 災害科学国際研究所は、東日本大震災をはじめとする災害で被災した史料の保全活動を、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワークの市民ボランティアの協力を得て実施してきたという。昭和28(1953)年の報告書に、梅津氏コレクションは推定約2万点との記録があったが、その後、コレクションの所在は長らく不明となっていたとする。しかし、上述の市民ボランティアの1名が梅津氏の遺族と知人関係にあり、佐藤准教授に梅津氏収集品に関して相談し、収集品が東北大の実習・調査の対象となったことが、今回の発見につながったとした。結果として、貴重な梅津氏コレクションが約70年ぶりに再発見され、仙台城大手門復元の手がかりを得ることとなったとした。「地域に開かれた大学」である東北大の、市民と協働で実施する授業や歴史資料保全活動が、歴史の解明に有用であることが改めて示されたとした。

(3)については、梅津氏のコレクションには、戦災で焼失したかつての仙台城下町に関する史料、さらには東日本大震災で甚大な被害を受けた三陸沿岸部の記録も含まれる。多くの史料を失った地域における歴史の空白を埋めるものとして期待されるとしている。

佐藤准教授らは今後、梅津氏コレクションのデジタル記録化・共有を目指していく予定だという。今後、コレクションが、各地の歴史を復元・再生する重要な手がかりとなることが期待されるとした。さらに、その過程を「文化財の活用」として位置づけ、市民参加型で実施することで、歴史資料の保全を契機とするまちづくりの実践も目指していくとしている。