ソフトバンクとEnpower Japanは7月2日、全固体電池の開発において、固体電解質の均質化に伴う活物質比率の増加および固体電解質層の薄膜化などの技術開発に成功し、全固体リチウム金属電池セルでの重量エネルギー密度350Wh/kg級の実証を実現したことを共同で発表した。
ソフトバンクとEnpower Japanの共同研究チームは、成層圏から通信サービスを提供する成層圏プラットフォーム「HAPS」などでの活用を想定した、次世代電池の研究開発を推進中だ。HAPSの運用では、1Lにおけるエネルギー密度を表す「体積エネルギー密度(Wh/L)」よりも、1kgにおけるエネルギー密度を表す「重量エネルギー密度(Wh/kg)」の高さが重要視されており、軽量でいて大容量のバッテリーが必要となる。
共同研究チームはこれまで、正極-固体電解質層の界面抵抗の低減や正極合材中の固体電解質の重量比削減、固体電解質層の薄膜化などの技術改良を行ってきており、2021年11月には液系リチウム金属電池セルでの重量エネルギー密度520Wh/kgの実証や、2023年8月には全固体リチウム金属電池セルでの重量エネルギー密度300Wh/kgの実証に成功している。今回の研究では、全固体電池でのさらなる重量エネルギー密度向上のために、界面抵抗の低減化に向けた材料の均質性の改善に取り組むことにしたという。
全固体電池は、現状のリチウムイオン電池など大半の一次電池、二次電池(バッテリー)の抱える液漏れする可能性が構造上ないため、その結果として発火の危険性をゼロにすることができ、小型軽量化や充電時間の短縮などで大いに期待されている。しかしその一方で、液体電解質とは異なり、正極活物質-固体電解質の界面の密着性が低いため、イオン伝導に関わる界面抵抗が増加して、電池容量の減少や、出力特性と寿命特性の低下、正極活物質-固体電解質間や固体電解質間同士の界面形成が難しいという課題を抱えている。
そうした課題を解決するため、今回の研究では、原料の粒度調整や粉砕プロセスの改良による固体電解質の粒径の制御に加え、成膜プロセスにおいて粒子の分散性が改良されて、固体電解質の均質化に成功したという。それにより、導電材の分散性が改善され、正極活物質利用率が高まり、また電極層の平滑性向上によって電極間に良好な界面が形成されて、大面積での高容量化と短絡抑制が可能となったとした。その結果、全固体リチウム金属電池セルの重量エネルギー密度を、350Wh/kgまで向上させることに成功したとする。
小型セルでは、392Wh/kgや200サイクルを実証済みだが、大型パウチセルではサイクル途中で短絡するという課題が残されているという。今後、電極の大面積化や積層状態でも短絡を防げるように、さらなる材料と電極の均質化技術の開発を進めていくとした。
ソフトバンクとEnpower Japanの両者は、今後も次世代電池の高容量化に向けた研究開発を続け、2024年度中に重量エネルギー密度400Wh/kgの実証を、その後、2026年度には1000サイクル以上の長寿命化を目指すとしている。また、体積エネルギー密度が既存の液系リチウムイオン電池セルと同レベルであることや拘束圧が高いといった課題を解決する要素技術の開発も進めるという。これにより、全固体電池のさらなる性能向上と実用化を目指すと共に、HAPSやドローンなどの航空分野、IoT機器や電気自動車などの車載用途への展開を進め、次世代電池による社会課題の解決に向けた多方面での貢献を実現していくとしている。