「リーズナブルなプライスで美味しさを追求」消費者と直接対峙するイオンの価格戦略

お惣菜でも本格的なレストラン並みの食事を

「惣菜と聞いて思い浮かぶのは、おかずにプラス一品とか、つくる時間が無いという家庭のサポート機能だと思われるが、今は外に食べに行くようなメニューを家庭で気軽に取り入れたいというニーズが顕著に見えている。そうしたニーズにお応えし、家庭の食卓の代替だけではなく、外食を含めたすべての食卓に応えていきたいと考えている」

 こう語るのは、イオンリテール社長の井出武美氏。

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 近年、コロナ禍でテレワークが定着したことなどから、自宅で食べる中食・総菜のニーズが高まっている。

 日本惣菜協会の調査によると、2023年の惣菜全体の市場規模は前年比4.9%増の10兆9000億円。昨今は物価高の影響もあり、外食を控える人たちが増え、お惣菜でも本格的なレストラン並みの食事を楽しみたいというニーズが増えた。

 そうした状況下、イオングループは約3年をかけ、総菜開発体制を見直した。商品開発から製造、販売までを一気通貫で行う〝食のSPA(製造小売業)〟を実現させるため、6月から千葉県船橋市で新たな総菜プロセスセンターを本格稼働。シェフと開発のスペシャリストによるチームを発足し、最新鋭の設備で商品開発を進めていく考え。

 狙いは、家庭ではなかなか実現できないシェフ・クオリティのお惣菜を毎日、気軽に食べてもらえるよう、シェフの技術を量産化で実現すること。同プロセスセンターから約100品目のお惣菜『Craft Delica(クラフトデリカ)』を生産し、イオンリテールやまいばすけっとなど、関東圏の約1500店舗で販売する予定だ。

 イオンリテール常務執行役員食品本部長の七尾宣靖氏は「節約志向やタイパ(タイムパフォーマンス)重視など、お客様が求めるものは、値段だけではなく、時間的な制約も大きくなっている。毎日ベストなものを食べたいというお客様のニーズに応えうる商品を提供し続けることが大事」と語る。

 お惣菜の開発強化を急ぐのは、ライバルのイトーヨーカ堂も同じ。ヨーカ堂は素材から味、容器までこだわった新たな惣菜ブランド『YORK DELI(ヨーク・デリ)』を立ち上げた。消費者が昨今の物価高で、品質が高く、より値ごろ感のある商品を求めていることが大きい。

NBは値上げ、PBは値下げ

 これはプライベートブランド(PB、自主企画商品)の開発強化でも当てはまる。

 イオンの2024年2月期の営業収益は9兆5535億円。このうち、PB『トップバリュ』の売上高は初めて1兆円を超えた。PB全体の売上高は約1兆4000億円となり、大手メーカーによるナショナルブランド(NB)商品が相次ぎ値上げをする中で、消費者が割安感のあるPBを選択するケースが増加している。

 4月10日の決算説明会で、イオン社長の吉田昭夫氏は今後のPB戦略について、価格訴求型と付加価値型の両方で顧客ニーズに応える必要があると宣言。

「当社も賃上げしたが、1次産業従事者や年金生活者など、賃上げの恩恵を直接受けない人々の割合は高い。こういった状況を見誤り、単に価格を上げると顧客が離れてしまう可能性がある」と指摘した上で「付加価値型と価格訴求型の両方を提供する必要がある。ディスカウント業態は成長が見込まれ、この動向が今後も続くと見ている」という認識を示した。

 イオンは今年3月に、サラダ油やマヨネーズ、ドッグフードなど、『トップバリュ』28品目を値下げした。昨年度から配送形態の見直しやグループのスケールメリットを活用して、一部商品の価格を改定してきたが、これで合計88品目を値下げしたことになる。6月10日には、全国約1万店舗でパンやヨーグルト、冷凍食品など、利用頻度の高い商品を中心に、PB52品目を増量すると発表した。

 同11日からは、ローソンが『盛りすぎチャレンジ』を実施。期間限定で、日本全国47都道府県を元気にしたいとして、値段はそのままで一部商品を47%増量。イオン、ローソンともに〝実質値下げ〟である。

 この他、ニトリは2月から『グループ1000店舗達成記念祭』と称して、最大3600アイテムを値下げ。西友は4月から日用品や冷凍食品など500アイテムを最大33.5%値下げしている。

 昨年から企業の賃上げが進んだとはいえ、厚生労働省の調査では、実質賃金は25カ月連続の前年割れ。過去最長を更新し続けており、物価の上昇に賃金の上昇が追いついていない。そういう状況下での、消費者と直接対峙する流通各社の価格対応。

 日本の食料自給率は約38%、エネルギー自給率も約13%しかない。食料もエネルギーも日常生活や社会活動を維持するために不可欠なものだが、資源に乏しい日本はほとんどを海外からの輸入に頼っている。それに昨今の円安が追い打ちをかけているのが現状だ。

 そうした中、井出氏は「惣菜はますます食品の柱になっていく。今後は総菜の固定概念を打ち破る商品の開発に挑戦し、リーズナブルなプライスで、イオンだからできる美味しさを追求したい」と語る。

 今のところ、物価下落の要因は見当たらないだけに、消費者の節約志向は今後も続くことが予想される。そうした中、いかに値付けをし、新たな需要を喚起していくか。企業の対応力が今まで以上に問われそうだ。

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