ソフトバンクグループ(SBG)は6月27日、医療データを収集してAIで解析するサービスを手掛ける新事業を発表した。米医療分野のスタートアップであるTempus AI(テンパスAI)と8月1日に新会社「SB TEMPUS」を設立する。資本金は300億円で両社がそれぞれ150億円を出資する。2024年内に、AIが最適な治療法を医者に提案するサービスの提供を目指す。
同日の記者会見に登壇した孫正義会長兼社長は、「私の父は去年、肺がんで亡くなった。毎年検査を受けていたが、見つかったときにはもうステージ4で全身に転移していた。毎日泣いた。この悲しみをAIの力で減らしたい」と、新事業に対する思いを語った。
医療データをAIが解析、医師に選択肢を提案
2015年に設立したTempus AIは、がん患者の遺伝子情報(DNAとRNA)や画像データ、電子カルテといった医療データを2000の病院から集め、AIで解析したうえで、医師に最適な治療薬や治療法を提案するサービスを手掛けている。がん患者のレコード数は770万件と業界最大級で、米国市場において高いシェアを誇る。同社は6月に時価総額1兆円規模で米NASDAQ市場に上場した。
孫氏は「Tempus AIが持つ技術とその仕組み、そして米国のがん患者の解析データをそのまま日本の医療機関で活用できるようにする。日本と米国の医療業界の叡智を集合させ、医療データの革命を起こす」と述べた。
また孫氏は、東京大学や京都大学、慶応大学といった全国に13あるがん治療中核病院の各トップから同事業への賛同を得たことを説明し、「少なくともこの13箇所の医療機関のデータを匿名化したうえで統一していきたい。病院や医師の負担にならないように、これらの技術は無償で提供する。将来的には、日本のがん患者の5割のデータが統一のデータベースで管理され、AIが解析できるようにしたい。僕は必ず広がると思っている」と展望を示した。
日本の遺伝子検査の実施率は0.7%
孫氏が問題視しているのが、日本における遺伝子検査の実施率の低さだ。最先端の医療とされる遺伝子検査の実施率は、米国の30%に対して、日本では0.7%と約30分の1にとどまっている。米国では年間約150万件の遺伝子検査が行われているが、日本では年間2万件しか行われていないという。
その要因の1つとして「遺伝子検査が最終手段になっている」(孫氏)ことが挙げられる。今日の日本におけるがん治療は、外科治療や放射線治療、薬物療法といった「標準治療」から開始され、そのあとに遺伝子検査という選択肢が出てくる。
「なぜそういう仕組みになっているか僕にはわからない。これからは、がんと診断されたら、真っ先に遺伝子検査を受けるべきだ。新しい事業を通じて、遺伝子検査の実施率を米国と同等水準にしていきたい。日本のがん治療を一気に開花させ、病による悲しみをゼロにしていく」(孫氏)
孫氏は最後に、AIの可能性について、改めて持論を述べていた。
「4年間で扱えるデータ量は急増し、コンピュータの演算能力は指数関数的に上がり1000倍になった。生成AIも米国の医師国家試験に合格できるようになった。次の4年にまた1000倍、つまり100万倍になり、そのまた4年後には10億倍になると断言できる。もうすでに医師国家試験に合格できる生成AIが、さらに10億倍の力を持つようになる。これは使わなきゃ損だろう」(孫氏)