実質賃金は7―9月期にプラス転換できるか?
「物価高も最近は徐々に価格転嫁され始めている。今後も徐々に売り値に転嫁していくべきだし、政府も公正取引委員会等を通じて、そうした動きを推進すべきだと思う」
こう語るのは、大和総研副理事長の熊谷亮丸氏。
ロシアによるウクライナ侵攻や長期化する円安などの影響を受けて、様々な原材料価格の高止まりが続いている。
帝国データバンクの調査によると、6月の食品値上げは614品目。円安による値上げは全品目の3割まで拡大し、今後、1㌦150円台の円安が長期化するようだと、今後も値上げは続くことが予想される。
熊谷氏は「今回の春闘で大きく賃上げができたので、これが徐々に反映されてくる2024年7―9月期に実質賃金がプラスに転換する可能性が高い。実質賃金が1%増加すれば消費は0.5%増加すると試算される。従来のようなコストカット型ではなく、賃上げを起点に設備投資が増えて賃金が上がっていくような、拡大均衡型の経済にしないといけない」と語る。
かねてから、キッコーマン取締役名誉会長の茂木友三郎氏は、「過度な安売りは日本経済を破壊するだけ。価格競争は避け、品質やサービスで勝負するべき」と訴える。
一方、昨年から企業の賃上げが進んだとはいえ、厚生労働省の調査では、実質賃金は今年4月まで25カ月連続の前年割れ。過去最長を更新し続けており、物価の上昇に賃金の上昇が追いついていない。
イオン社長の吉田昭夫氏は、「当社も賃上げしたが、1次産業従事者や年金生活者など、賃上げの恩恵を直接受けない人々の割合は高い。こういった状況を見誤り、単に価格を上げると顧客が離れてしまう可能性がある」と指摘する。
イオンは2024年2月期にプライベートブランド(PB)『トップバリュ』の売上高が初めて1兆円を超えた。大手メーカーのナショナルブランド(NB)商品が相次ぎ値上げをする中、消費者が割安感のあるPBを選択していることの表れだ。
『ドン・キホーテ』を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏は、値付けについて「価格設定は本当に難しい。これは誰にも正解が分からない問題だが、お客様が安いと感じていただける最も高い値段を考えるのが究極の値付け」と語る。
マクロ的な観点から考えれば、物価上昇を価格転嫁し、賃上げにつなげ、消費を拡大する……という好循環を生み出し、真のデフレ脱却へつなげることが必要。しかし、物価高に賃金増が追い付かない現状では、消費者の財布の紐は堅いまま。
デフレ脱却の正念場にある中で、どう値段を設定するか。企業各社の悩みは尽きない。