≪東京電力≫原発再稼働準備整うも「地元同意」の見通し立たず

賠償・廃炉費用は従来より約2兆円増の見通し

 東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県)で6月、再稼働に向けた安全確認のための検査が完了した。設備は準備が整い、あとは地元自治体の同意を残すだけだ。しかし、1月の能登半島地震をきっかけに安全への懸念が強まり、具体的な見通しが立たない。

 新潟県の花角英世知事は今月、経済産業省に齋藤健経産相を訪ね、原発事故を想定した新たな避難道路の整備を要望した。能登半島地震で家屋の倒壊や道路の寸断が発生したことを受け、防災対策に対し、県民の不安が募っている。

 花角知事はさらに、東電が過去に起こしたテロ対策の不備などの不祥事で「今もなお東電に対する信頼は大きく損なわれている」と指摘。齋藤経産相は同社の運営体制について「引き続きしっかり指導していく」と応じた。

 東電が設備の準備完了を発表した翌日、東電HD社長の小早川智明氏は東京都内で記者会見し、再稼働について「今の段階でどういうスケジュールでというより、理解活動に努めていきたい」と述べ、時期については明言を避けた。

 同原発7号機は4月に燃料の搬入を終えた。今後、「起動」の時期を示す計画を原子力規制委員会に申請することになる。

 原発は核分裂反応を抑える制御棒を引き抜くことで起動するが、小早川氏は「次のステップは実質再稼働することになる」と話し、「(地元の)不安がある程度払拭される状態が重要になる」と強調した。

 東電を巡っては、経営再建計画である「総合特別事業計画」の今年度内の見直しに向けた議論が始まった。現計画は、福島第1原発事故の賠償・廃炉費用を年間で5000億円程度確保した上で、4500億円規模の利益を計上することを中長期的な目標としている。

 ただ、賠償費用は原発にたまった処理水の海洋放出に伴う水産事業者への賠償拡大などで膨らむ。従来21.5兆円とされた賠償・廃炉費用は23.4兆円に膨らむ見通し。収益改善は柏崎刈羽原発の再稼働が前提となるが、その再稼働は地元の同意を得られるかどうかが焦点となる。

【著者に聞く】『エネルギー危機の深層 』JOGMEC調査部調査課長・原田大輔