レッドハットは6月20日、東京赤坂インターシティカンファレンスで2024年度 レッドハット事業戦略説明会を開催した。会場では代表取締役社長 三浦美穂氏が登壇し、2023年度の活動を振り返ると共に同社の今年度の目標について発表、注目のAI戦略に関しての説明も行われた。説明会の模様についてレポートする。

デベロッパーエクスペリメント向上と「OpenShift」、次世代ビジネスとして産業オートメーションとEnterprise AIに注力

レッドハット 代表取締役社長 三浦美穂氏

レッドハット 代表取締役社長 三浦美穂氏

三浦氏は、初めにレッドハット日本法人が今年で25周年を迎えることができたことに謝辞を述べ、次に昨年度の同社の活動と2024年度の事業戦略の説明を行った。

同社の2023年度の活動については、コアビジネスにあたるコンテナ・コンテナ自動化サービスにあたるKubernetesをベースとしたハイブリッドクラウド・アプリケーション・プラットフォーム「Red Hat OpenShift(以下略、OpenShift)」などの好調による2桁成長の継続、同サービスのAWS、Azureでの利用の拡大、エッジビジネスでの基盤構築など、順調に事業展開が進んでいることを報告した。

特に「OpenShift」については、「DX白書2023((IPA)[https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html])」でも指摘されていたが、コンテナ・コンテナ自動化サービスを利用・検討している企業が米国73%に対して日本は25%と大きく乖離しており、増加が予測できるためサービスの需要が今後も期待できる。

レッドハットの社会的役割として"常に時代にあわせた最適なプラットフォームを提供し続ける"ことを強調、2024年度に目指すべきプラットフォーム展開として"プラットフォームの未来をつくる"をテーマにデベロッパーエクスペリメントの向上と次世代ビジネスの成長の2つコンセプトを掲げた。具体的サービスとして「DevSecOps(開発・セキュリティ・運用サイクル:詳細」と「クラウド体験」、新たな次世代ビジネスとして「産業オートメーション」と「Enterprise AI」を推進していく考えだ。

  • オープンソースがつくる「プラットフォームの未来」

    オープンソースがつくる「プラットフォームの未来」

デベロッパーエクスペリメントの向上については、DevSecOpsな開発プロセスを強化する参加型ワークショップサービス「Red Hat Open Innovation Labs」による開発チームづくり支援やアジャイル開発支援コミュニティ「Red Hat Open Innovation Labs アドバイザリー・ボード」の拡充を行う。

  • デベロッパーエクスペリメントの向上

    デベロッパーエクスペリメントの向上

クラウド体験に関しては、従来の仮想マシンをハイブリッドクラウド・アプリケーション・プラットフォームに移行する「Red Hat OpenShift Virtualization」と自動化プラットフォーム「Red Hat Ansible Automation Platform」により、仮想マシン運用管理からクラウド運用への移行を推進。Virtualizationによるコンテナと仮想マシンの運用の統合とAnsibleによる自動化でコスト削減効果も期待できることを語り、パートナー企業とアライアンスを強めてビジネスを加速させていくことをアピールした。

  • 従来の仮想マシン管理からクラウドへの運用へ

    従来の仮想マシン管理からクラウドへの運用へ

次世代ビジネスの成長に関しては、IoTなどのエッジサービスとEnterprise AIサービスの2つに注力する。エッジサービスでは、産業オートメーションソフトウェアのモダナイズと統合集中管理による効率化と運用負荷軽減などを可能とする「Red Hat Industrial Edge Platform」を提供。エッジ先端のリソースに制約のある小型デバイスなどの制御をサポートするプラットフォーム「Red Hat Device Edge」を活用したIoT対応データアクセスユニット「Device Gatway」を産業用技術商社たけびしが提供をはじめるなどエッジ市場での展開が進められている。

  • 「Red Hat Industrial Edge Platform」

    「Red Hat Industrial Edge Platform」

もう一つの柱が企業向けEnterprise AIサービスへの取り組みだ。同社では、AIビジネス活用を促進するAIプラットフォームの提供とAI開発を支援するIBMのLLMモデル「Granite」に対応した生成AI開発プラットフォーム「Red Hat Enterprise Linux AI」や機械学習プラットフォーム「Red Hat OpenShift AI」他、レッドハットプロダクトへの生成AI導入を支援するRed Hat LightSpeedなど、既存のレッドハット製品利用の高度化を進める。

企業用にチューニングされたAIとその開発を可能とする次世代AIプラットフォーム提供を目指すレッドハット

レッドハット テクニカルセールス本部クラウドスペシャリストソリューションアーキテクト部アソシエイトプリンシパル北山晋吾氏

レッドハット テクニカルセールス本部クラウドスペシャリストソリューションアーキテクト部アソシエイトプリンシパル北山晋吾氏

同社のAI事業戦略の詳細についてはレッドハット テクニカルセールス本部クラウドスペシャリストソリューションアーキテクト部アソシエイトプリンシパル北山晋吾氏が説明を行った。北山氏は、AIは既に企業において品質保証からソフトウェアテスト、コード生成まで様々な分野で利用されており、更なる利便性の追求が進むことで次世代のAIに求められるものは、それぞれの企業に最適化されたLLM(大規模言語モデル)であると、開発と最適化の調整を自在に行えるプラットフォームこそが必要になると語った。

LLMモデルの精度は学習用データに依存しており、企業サイドにとって企業データを積極的に学習させることでより効果的なAI運用が可能になる。この自社専用のAIを育成していく方法について、同氏はRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成。外部ソースより取得した情報で生成AIモデルの精度向上を図る手法)とFine-tuning(学習済みモデルを別のデータセットで再トレーニングする手法)の2つの方法を紹介した北山氏。それぞれメリットとデメリットがある中、レッドハットはIBMと共同で開発した手法「LAB(Large-scale Alignment for chatBots)」を提案する。

  • レッドハットが提唱する企業に最適なAIの創り方

    レッドハットが提唱する企業に最適なAIの創り方

「LAB」は、分類法に基づく合成データ生成プロセスと多段階の調整フレームワークにより、少量でも効果的に学習データを取り込むことが可能なAI学習手法でLLMトレーニングの命令調整フェーズにおけるスケーラビリティの課題を克服するために設計された。その手法はオープンソースの開発スタイルに似ており、タクソノミー(taxonomy:段階構造に分類整理されたデータ仕様)に基づいた新データ追加のプルリクエストを受けて、レビュアーがチェック用データを生成し新データのレビューを実行、認証されたデータをシステムが本データへと統合していく。「LAB」は、同社が支持する「AIの民主化」にも通ずるものがあり、この手法をベースに今後AIサービスを展開していくという。

  • オープンソースの開発スタイルで企業AIを育てる

    オープンソースの開発スタイルで企業AIを育てる

「LAB」の手法を現実化するツールとして同社は、IBM Research(IBM基礎研究所)の大規模言語モデルでオープンソースの「Granite」(https://github.com/ibm-granite)と「Granite」を育成するツールとして、「LAB」によるデータ追加が可能な「InstructLab」の2つを提供する。

  • 自分の知識を活用してAIを育てる「InstructLab」

    自分の知識を活用してAIを育てる「InstructLab」

これらのツールを運用する環境として「Red Hat Enterprise Linux AI(以下略、RHEL AI)」と「Red Hat OpenShift AI」の2つのプラットフォームを提供。RHEL AIは、LLMトレーニングデータセット「Granite family models」やデータ調整と開発を行うツール群「InstructLab model alignment tools」、ランタイムライブラリとハードウェア最適化を含む起動OSイメージをパッケージ化した「Optimized bootable model runtime instances」などを統合し、オープンソース「Granite」育成に最適な環境を提供する。

  • オープンソースの力で推進するAIの民主化

    オープンソースの力で推進するAIの民主化

「Red Hat OpenShift AI」は、ハイブリッドクラウドによりAIと機械学習をどこでも利用できる環境を提供するプラットフォームでセルフトレーニング実験環境「Model development」、生成したLLMをAPIサービスとして提供する「Model serving & monitoring」、様々なアクセラレーションデバイスを利用可能とする「Hardware acceleration」を提供する。両サービスはオープンソースをベースとしており、オープンソースを主導するRedHatのスタンスと「AIの民主化」への取り組みと一致するこの2つのサービスを軸にAI戦略を展開していくという。

レッドハット代表取締役社長に就任、まもなく1年を迎える三浦氏

三浦氏は、日本IBMで専務執行役員 パートナー・アライアンス&デジタル・セールス事業本部長を務め、昨年7月にレッドハットの代表取締役社長に就任し、まもなく1年を迎える。今年1年の仕事について「チームのおかげで事業も成長し、お客様から期待されている実感があり、これからも成長し続けられるという自信になりました。良い機会を得られたと感謝しています」と所感をコメントしている。

  • まもなく就任1年を迎える三浦氏

    まもなく就任1年を迎える三浦氏