東京工業大学(東工大)は6月21日、ねじり変形を加えた「カーボンナノチューブバンドル(CNTB)構造体」に回位が生成され、同構造体内において回転型の欠陥である「回位線」が長いほど、「ヤング率」(縦弾性係数)が低くなることを解明したと発表した。

同成果は、東工大 物質理工学院 材料系のライ・ショウブン准教授、同 ルー・トン大学院生、同・藤居俊之教授らの研究チームによるもの。詳細は、低次元ナノ材料を含めた炭素材料に関する全般を扱う学術誌「Carbon」に掲載された。

回位は回転型の格子変位を持つ線状の格子欠陥であり、材料関連業界において、材料の強化や新奇な機能創出を行う場合、その制御は避けて通れない重要な要素だ。CNTBにおける回位は、CNTを1本抜き差しする操作に相当する回位導入により、CNTBの横断面を一様な六員環結晶構造から五員環結晶構造または七員環結晶構造に変えることが可能。こうした材料の諸特性を制御するには、回位の生成・成長機構に加えて、回位が材料力学特性に及ぼす影響の解明が不可欠となるという。

  • CNTBにおけるくさび型の回位の概略図

    CNTBにおけるくさび型の回位の概略図。(a)正の回位、(b)完全なCNTB構造体、(c)負の回位(出所:東工大プレスリリースPDF)

複数の柱状素線を束ねたバンドル構造は、さまざまなスケールで応用される普遍的な構造様式だ。ねじり変形させた同構造体の幾何構造は、力学特性の改善に密接に関係する。さらに、同構造体をねじり変形させ、格子欠陥生成による内部構造変化を積極的に利用することで、材料特性の向上をもたらす可能性があるする。そうした中、ねじり変形させたCNTBでは延伸性能が低いことが解決すべき問題とされていたことから、研究チームは今回、分子動力学シミュレーションでCNTBをねじり変形させ、どうなるのかを調べたとする。

その結果、CNTBのねじり変形により回位が生成することが発見され、さらに回位線も初めて観測されたとのこと。なお今回のシミュレーションでは、1本のCNTを中心に、その周りにCNTを同心円状に積層分布させ、層数の異なるさまざまなCNTBモデルが構築された。初期緩和計算過程で、CNTBの横断面は初期の円形配置から六角形配置に変化。その上で、CNTBの両端に対し、互いに逆向きに等しい角速度0.0218rad/ps(1.25°/ps)でねじり変形が行われた。

なおその際には1フェムト秒をタイムステップとし、1000ステップ(1ピコ秒(ps))ごとにCNTBをねじり変形させ、10psの緩和時間を設けて、破壊に至るまでねじり変形と緩和が繰り返された。この緩和計算過程では、ねじり変形によってz軸に沿って発生する応力を緩和するため、端部がz軸に沿って自由に動ける条件が与えられた。

CNTBの横断面における内部構造の変化を解析するため、各断面内(xy平面)の各CNTを点として描き、3次元ではz方向に沿った線として表すと、横断面での内部構造をプロットすることが可能だ。同プロットからは、ねじり変形の過程でCNTB中のCNTの総数は一定に保たれるが、CNTBの局所的な配置は変化したことがわかるという。また、初期緩和状態の一様な六員環構造は崩れ、局所的な格子欠陥回位が形成されたことが観察されたとしている。

  • 全原子モデルから粗視化モデルまでのCNTBの模式図

    全原子モデルから粗視化モデルまでのCNTBの模式図。(a)全原子モデル、(b)初期CNTBの粗視化モデル、(c)CNTBの横断面、(d)ねじり変形を受けたCNTBの粗視化モデル、(e)回位の生成過程(出所:東工大プレスリリースPDF)

そしてCNTBをねじり変形させた結果から、回位線が長いほどヤング率が低下することが判明。CNTBの3次元モデル(6層を例)では、各横断面で観察された回位は3次元では線状に連なっている様子が観察されたとする。また、ねじり変形によって発生した回位はくさび型に属し、回位線の方向はz方向に伸びているものの、形状は直線ではなく曲線であることが分かった。さらに、ねじれ角度が増加するにつれて各横断面で回位が生成し続け、回位線が成長すると共に、CNTBのヤング率が顕著に減少することが解明された。

なお、ねじり変形前のCNTBのヤング率は層数に依存せず、ほぼ1テラパスカルであり、ねじり変形を受けたCNTBのヤング率の減少率もほぼ層数に依存しないことも確認されたとのこと。3層からなるCNTBでは回位は発生しないものの、層数が増えるにつれて回位線の長さは長くなり、ヤング率は低下することが初めて明らかにされた。

  • 回位線の成長とヤング率の相関図

    回位線の成長とヤング率の相関図。CNTB構造(a)ねじれ角度0rad、(b)4.93rad、(c)5.02rad、(d)回位線の長さとねじれ角度、(e)ヤング率とねじれ角度、(f)ねじれ角度6.28radにおけるCNTBの回位線の長さとヤング率の線図。(a~c)の赤い点は正の回位、青い点は負の回位が表されている(出所:東工大プレスリリースPDF)

研究チームによると、今回の研究の最終目標は、材料の格子欠陥導入に伴う微視的内部構造変化と力学特性の相関解明から得られる知見を材料機能設計に活かし、新しい計算材料科学に関する学問分野を開拓することだという。微視的な格子欠陥導入を積極的に利用したマクロな諸特性を有する材料設計は、さまざまな分野への応用が期待されるとする。

また、CNTB材料内における回位の存在状態を研究することは、強度や靭性といった同材料の力学特性を理解し、向上させるのに役立つとのこと。最近では材料内の回位の重要性が認識されつつあり、知見の整理・概念の統合・理論の精緻化により、実験の指針となる回位理論を構築することが期待されるとしている。