退職者は裏切り者─。こんな価値観が日本社会には根付いています。世の中では「働き方改革」と声高に叫ばれていますが、当社はむしろ個人の「辞め方改革」と企業の「辞められ方改革」をスローガンに据えています。その根幹には、卒業生や同窓生、企業においては退職者を意味する「アルムナイ」が、その企業にとっては大きな戦力になり得るからです。
2017年に私が起業した当社の事業はアルムナイ領域でSaaS「Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)」を運営しています。企業ごとにアカウントを保有し、企業側は人事管理システムのように、退職者の情報を一元管理することができる点が特徴です。また、企業側だけでなく、退職者側にもメリットがあります。退職者側はクローズドなコミュニティーに加入できるからです。
これまで退職者と企業がつながるケースとしては、SNSなどを使って有志でコミュニティーをつくっているケースが大半でした。しかし、つながりたいメンバーも最初は盛り上がっているのですが、時間の経過と共に、その盛り上がりも徐々に下火になってしまうのです。
一方で、オフィシャル・アルムナイ・ドットコムを導入すると、このつながりが途切れないというメリットがあります。会社側は退職者と常に連絡が取れる状態にあるのです。そもそも退職者全員が仕事好きではありませんし、SNS好きな人ばかりではありません。しかし、当社のシステムはクローズドなので、そういった人たちも参加しやすい。
そして、何よりも会社を辞めた人は、その会社に後ろめたさを感じるものですが、退職者同士がつながり、辞めた会社ともつながっていることを実感することができれば、退職者にとっての辞めた会社のイメージは決して悪くはなりません。
今はどの産業も人手不足です。その点、アルムナイの潜在価値は非常に大きい。自社の事業内容や企業風土、どんな社員がいるかも分かっている。仮に、その退職者が別の業界で活躍していたならば、その人が新天地で培ってきた経験や知恵を参考にすることができますし、もしかしたら再入社してもらえるかもしれません。当社のサービス利用者でそういった事例は多々出てきています。
アルムナイが貴重な戦力になると大手企業は捉えつつあり、当社のサービスも業種を問わず大企業に導入いただいています(編集注記:トヨタ自動車、三菱商事、パナソニックホールディングス、野村ホールディングス、JT、サントリーホールディングスなど)。
そもそも私がアルムナイの可能性を感じたのは人事サービスの企業に在籍していたときでした。同社で海外事業の立ち上げを経験し、シンガポールの代表をしながら中国拠点を立ち上げていたとき、シンガポールなどでは外資系企業が本当にアルムナイとうまくつながっていることに気づいたのです。
企業からすれば、従業員の退職は決して喜ばしいことではないでしょう。しかし、個人のキャリアが多様化し、転職が当たり前になったのであれば、退職しても関係性が続いていくアルムナイに取り組むべきではないかと考えたのです。
一方で企業にも努力が必要です。アルムナイがつながりたい、戻りたいと思うような魅力的な企業になっているかどうかが重要になるからです。人の可能性に焦点を当て、新たな「人的資本」の在り方を提案していきたいと思っています。