小川亮・グリーンモンスター代表取締役「金融の知識が向上すれば、金融トラブルも防げる。若いうちから金融に触れる機会をつくりたい」

日本人の金融知識は他国に比べても低いと言われて久しい。一方で政府は国をあげて「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、新NISA(少額投資非課税制度)も始まった。そんな中で投資を学習できるアプリケーションを開発・運営するのが東証グロースに上場したグリーンモンスターだ。代表取締役の小川亮氏は「株取引やFXなどを、まさに現実のように体験して学ぶことができる」と話す。小学生も使う投資学習アプリの中身とは?

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株取引などを現実のように体験

 ─ 3月29日に東証グロースに上場しましたが、FX(外国為替証拠金取引)や株式投資、資産形成を疑似体験できる投資学習アプリの開発を手掛けています。ユニークな事業ですね。

 小川 当社はデモ取引や漫画を取り入れ、ゲーム感覚で株式投資やFX投資を学べるアプリを開発しています。具体的には株取引を学ぶ「株たす」をはじめ、マネープランシミュレーションのための「トウシカ」、外貨取引によって利益を出すFXを学ぶための「FXなび」、暗号資産取引学習の「暗号資産なび」といったアプリがあります。

 そもそも老後資金が2000万円不足すると言われ、将来に向けた資産形成に注目が集まっていますが、日本では投資は難しそうでよく分からないという方が多いのが実情です。そこで、とにかく誰でも簡単に使えて、簡単に投資を学ぶことができるアプリを目指して開発しました。

 例えばトウシカはNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の積み立てシミュレーションができますし、株たすは本格デモトレードで株取引をリアルに体感することができます。

 もともとは大人をターゲットにして開発していたのですが、子どもにも分かりやすい内容になっていることから、今では小学生や、中高生の授業でも当社のアプリを使っていただけるようになっています。

 ─ 金融に絡むものが子どもも使うとは意外ですね。

 小川 当社のアプリは株取引やFXなどを、まさに現実のように体験しながら学ぶことができる点が特徴です。他社にも似たようなデモトレードと呼ばれるアプリや機能を提供しているところはあるのですが、当社のアプリはゲーム感覚で手軽に学べるため、子どもでも興味を持って利用していただきやすいのではないでしょうか。

 その具体的な事例として、例えばアプリ上のデモトレードは最初から全ての機能が利用できるわけではありません。まずは簡単な機能しか使えないようにしてあります。そこから徐々にユーザーの習熟度の向上に伴って機能を解放していくのです。

 ですから、アプリを始める前に株取引やFX取引の知識を持っていなくてもアプリの方がユーザーを順次、次のステージに導いてくれるようになっているのです。また、単にデモトレードだけを提供するのではなく、途中に株取引やFX取引についての解説も出てきます。この解説も、文章だけではなく、漫画や動画など、様々な形で学べるようにしています。文章を読むのが面倒であれば漫画で、音声付きの方が良ければ動画でといった具合に、それぞれの嗜好に合わせて学習できるのは子どもの勉強には適しています。

 そのほか、「株たす」では、昨今急増するSNS経由の投資詐欺を体験して学ぶ「投資詐欺体験チャット」やアプリ上で株をデモ購入すると、実際に株主優待と同等の商品が抽選で当たる「誰でも株主優待」など、様々な体験企画を取り揃えています。

トップの累計ダウンロード数

 ─ どのような収益モデルになっているのですか。

 小川 アプリの利用自体は無料です。利用者がアプリを通じて証券会社やFX会社などで口座を開設した場合、証券会社から成功報酬を受け取るモデルになっています。今では累計ダウンロード数が700万を超えています。最近では、この1月から始まった新しいNISA開始の影響もあって、株たすやトウシカの成長率は前年同期比100%超で成長しています。

 ─ うまくいった要因は。

 小川 2つあるのではないかと思っています。1つ目は、つくること、売ること、見せることといった全てのフェーズでしっかり取り組んできたことが挙げられると思います。単にアプリをつくるだけではなく、手に取ってもらいやすいようにかわいいキャラクターを入れたりして工夫し、続けてもらいやすいように作りこみました。

 2つ目はアプリケーションのマーケットであるアプリストアの持つエコロジーを研究・調査し、いち早く他にないものを提供することで先行者優位を保っている点です。やはり、累積ダウンロード数が多いアプリが評価される状態ですので、仮に新しいプレーヤーが入ってきても、当社の累積ダウンロード数を引っくり返すのは難しいでしょう。

 ─ ユーザーの層はどのくらいの年齢層なのですか。

 小川 金融商品によって違います。積み立てベースにしたものですと、20代から30代の若年層が多いです。一方で、トレード系や短期投資の側面が強いものは50~60代が多いです。それから先ほども少し話に出ましたが、最近では全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するGIGAスクール構想が動き出していますので、小・中学生にも使っていただいています。

 最近、私の小学生の娘が「学校の昼休みに男子がお金のアプリばかりやっているよ」と言っていたので、私もお金のアプリを開発・運営していることもあり、「何というアプリなの?」と聞いたら「株たす」だと(笑)。それだけ小学生にも評価を得ていると。また、学校の先生にも評価いただき、共立女子中学高等学校では当社のアプリを使った特別講座が行われています。

個人の金融リテラシーの向上を

 ─ 若年層に向けた金融教育にもつながりますね。

 小川 おっしゃる通りです。政府が掲げる「貯蓄から投資へ」の流れやコロナ禍という状況も相まって、日本人の投資への関心が高まる一方、金融に対する知識不足や心理的な不安から投資に踏み出せない方がたくさんいます。特に若年層はこの傾向が顕著です。シミュレーションやクイズなどの体験型で投資を分かりやすく学ぶことができれば、不安も解消できますからね。

 また、投資は個人の豊かさにつながるだけでなく、社会全体の発展にもつながると思うのです。個人が金融リテラシーを向上させることによって、金融商品やサービスを選ぶ際に、より適切な判断ができるようになりますし、投資詐欺などの金融トラブルに巻き込まれることを自ら防ぐこともできます。そして、少しでも若いうちから金融に触れていれば、将来、自らの資産形成を考える際にも、これが役に立つと思っています。

 ─ では、今後の海外展開に対する考え方は?

 小川 私が当社を創業したのも、日本人の金融リテラシーを上げるための一助になりたいという思いからでした。それは国としても同様です。その流れが東南アジアの国々でも起こり始めています。投資だけではなく、国民の金融リテラシー自体を上げようという流れが出てきているのです。海外展開はまだこれからですが、早期に検討していきたいと思っています。

 ─ 小川さんが2013年に起業して今年で11年です。どのように振り返りますか。

 小川 起業した当初は、まさか自分たちが上場するなど全く考えていませんでした。そもそも私の前職は携帯電話向けゲーム制作を手がけていたインデックスでした。しかし、同社が民事再生手続きの廃止決定を受け、破産しました。将来をどうしようかと思っていたところ、偶然にも同社で一緒に働いていたメンバーから会社をやろうと言われて私も加わりました。

 当初は食べていくためだけに会社を始めたという感じでしたね。ただ、会社を始めて何とか事業も軌道に乗り、事業開始5~6年目のタイミングでIPOも意識し始めることができるようになりました。IPOまでの準備期間は最短で2年と言われていましたが、当社は4年半でした。時間がかかりましたが、結果として新NISAが盛り上がっている絶好のタイミングで上場することができたと思っています。

 ─ 創業時の同志は何人くらいいたのですか。

 小川 私を含めて、現在、事業部を管掌している取締役の藤沢亜理沙と、当社のキャラクター「グリモンちゃん」を描いているメンバーの3人です。そこから社員の入れ替えもありましたが、結果として今の社員たちは非常に感性の研ぎ澄まされたメンバーになっています。

 ─ 社員数や平均年齢はどれくらいですか。

 小川 社員数は23年末時点で44人ほどですが、平均年齢は31.9歳です。中でも男女比は女性が6割を超えています。今は中途採用が基本ですが、25年には新卒採用も予定しています。

フリーター生活を経ての起業

 ─ 創業してから苦しかったことはありましたか。

 小川 いや、これが不思議とありませんでした(笑)。ありがたいことに資金繰りも、創業以来黒字です。それだけニーズをうまく取り込んでくることができたのかなと。その意味では、私はとにかく鈍感だと。ここには結構自信があります(笑)。

 ─ いい意味の鈍感ですね。

 小川 そうかもしれません。振り返ってみると、一橋大学社会学部を卒業し、大学院に進んだのですが、結局、中退してホビーショップでのアルバイトを続けていました。フリーターですね。当時は電車賃がなくてバイト先にも行けないような日々を過ごしていましたからね(笑)。

 ─ フリーター生活を通じて得たことはありますか。

 小川 どうでしょうか。ちょっと分かりませんが、フリーターをしていたから最終的には前職のインデックスに拾ってもらうことができたことは間違いありません。インデックスもちょうど上場したタイミングでしたので、とにかく人が欲しいと。

 そしてインデックスに入社してみると、自分と同じような境遇の人がたくさんいると分かりました。その中でモバイルコンテンツの制作に携わるようになったわけです。モバイルコンテンツはパソコン向けのコンテンツほど難しくないので、すごく入りやすかったですね。

 ─ そういう時代の境目にいたということですかね。

 小川 そうですね。割と遠回りした自分でも、きちんと仕事をして社会に貢献してきたのかなと。投資教育の世界に身を置いていると、日本はどうしても皆が損をしないようにし過ぎる側面があります。損しないことだけがプラスではないという点は伝えていきたいと。

 一昨年には経団連に入会しました。ベンチャー企業である我々が賃上げなどにも取り組むと同時に、そういった損失回避の心理やメンタリティーが日本人の投資に対する消極さにつながっているところを変えていきたいとも思っています。

 当社は投資や資産形成を通じ、社会を支援する投資家を増やすことで、「消費者から支援者へ」と、人々の社会との関わり方を変えていきたいと考えています。そのためにも個人の意欲や行動だけに依存せず、学校などの教育機関や企業・団体での金融教育や資産形成支援をもっと広げていきたいと思っています。