「(自動車メーカーという)企業としてサプライヤーとどう向き合っているか。そのケアが足りていない」─。日産自動車社長の内田誠氏はこう語る。
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同社は下請け業者への納入代金を発注後に減額した下請け法違反問題を受け、内田氏の月額報酬の30%を3カ月分自主返納することに加え、再発防止に向けて取引先の相談に応じる社長直轄の組織を設ける。
同社では発注後に不当に減額する「割戻金」という商習慣が根付いていた。3月にはこの行為が下請け法違反に当たるとして公正取引委員会から再発防止の勧告を受けた。約2年間で下請け業者36社を対象に計36億円超を減額していた。日産は全額を支払った。
さらにその後も、一部報道で不当な減額を続けていた疑いが指摘されたが、同社が設置した調査チームの調査では、違法行為は確認されなかったとした。
ただ、「取引先から厳しい声が上がっていることを大変重く受け止めている。サプライヤーの声を聞けていなかった」と内田氏が語るように、日産の行為は約30年前から行われており、社内で常態化していたとみられる。
ある関係者は「カルロス・ゴーン時代の改革の残り香とも言える。『コミットメント』と呼ばれる必達目標が現場では未だに根付いており、サプライヤーに対しても『1円でも安くする』という考え方から脱却できていない」と指摘する。
電動車への移行期にある自動車業界にあって、足元ではガソリン車やハイブリッド車で収益を上げて次世代の電気自動車(EV)などへの研究開発費の原資に充てる必要がある。そのためには、サプライヤーからの協力は不可欠。電動ユニットなど自動車メーカー単独でクリアできる内容ではないからだ。
内田氏は割戻金制度を廃止し、社長直轄の「パートナーシップ改革推進室」を設置。日産社員が現場に足を運び、サプライヤーの困りごとを掬い上げ、その対策などを経営陣が意思決定を行う体制づくりを目指す。
ただ、ゴーン氏が日産を去って約5年。「上司の顔色を伺うより顧客を見なければならない。もはやゴーンのせいにはできない」(同)という声も上がる。日産の自浄作用が求められる。