アジレント・テクノロジーは6月19日、同社のバイオ医薬品開発向け液体クロマトグラフ/四重極飛行時間型質量分析装置(LC/Q-TOFシステム)「Agilent 6545XT AdvanceBio」向けオプションとしてペプチドやタンパク質の特性解析機能を強化する「Agilent ExDセル」を発表した。
従来のコリジョンセルでは四重極を透過したイオンにコリジョンガスを衝突させて解離させた後、透過してきたイオンをToFで分離、検出する仕組みであったが、ペプチド中に修飾可能位置が複数ある場合、修飾位置を決定することが難しいなど、複雑化するバイオ医薬品開発におけるさらなる詳細な構造特性解析ニーズに対応が求められていたという。同セルは従来のコリジョンセルを置き換える後付けオプションという位置づけとして、同社が2023年に買収したオレゴン州立大学発スタートアップe-MSionの技術を発展させたもの。不活性ガスと衝突させる衝突誘起解離(CID:collision-induced dissociation)の後段に、試料イオンに電子を照射し、電子が捕獲されたときにそのイオンが断片化され、それを元に特性解析を可能とする電子捕獲解離法(Electron Capture Dissociation:ECD)を行うことで、対象を細かく断片化できるようになり、CIDと比べてより多くの情報を得ることができるようになるという特徴がある。
また、製品化にあたっては従来はフィラメントの調整を必要としていた部分の改良も実施。誰でもフィラメントを対応部分に差し込むだけで調整なしで高い精度を発揮できるようにしたことで、使い勝手も向上させたとする(フィラメントは消耗品扱いなので、使い方にもよるが数か月での交換を同社では推奨している)。
さらに、そうして得られる膨大なデータに対する解釈を支援するためのツールとしてWindowsアプリ「Agilent ExDViewer」も用意。すでに同社Webサイトよりユーザー情報を登録すること無料でダウンロードすることができるほか、Agilent ExDViewerの紹介サイトでは「Browse Examples」としてブラウザ上でどういったデータが得られるのか、といったものを見ることも可能となっている。
同社では、AdvanceBio LC/Q-ToF向けデータ解析ツールとして「BioConfirm」も提供しており、その最新版となる12.1よりECDにも対応済み。ペプチドの配列マッチングなどをBioConfirmにて行い、詳細なタンパク質のトップダウン解析などをExDViewerといった使い分けが想定されている。いずれも、元となるデータは同社のMassHunterから取り込んで処理する形となるという。
アジレントでは、これまでAdvanceBio LC/Q-ToFを活用してきたが、さらに詳細な解析などを行いたい人が多いペプチドやタンパク質分野の研究などをメインターゲットとしているほか、日本では有機材料に関する研究開発が活発であることから、そうした材料分野での活用も期待できるのではないかとして、そうした日本ならではの市場にもアプローチをしていきたいとしている。
なお現時点では、同製品を組み込んだ状態でのAgilent 6545XT AdvanceBioの販売は想定しておらず、あくまで後付けのオプションという扱いとしている。すでに受注は開始しており、秋ごろには出荷が開始できる予定だという。また、2024年6月時点では実際にデモを見ることができるのはシンガポールならびに米国の複数拠点と限られていることから、同社では実機を用いたデモなどを実際に見たい場合は、アジレントの営業担当者などに相談してもらいたいとしている。