水分摂取を制限したマウスは、通常のマウスに比べて便通が悪くなるだけではなく、腸内細菌のバランスが崩れ、病原菌の排出にも時間がかかることを、北里大学などの研究グループが明らかにした。水分量を通常の半分に減らすと、腸の免疫に著しい乱れが生じ、感染症にかかりやすいことが確認できた。今後はヒトでも同様の結果が生じるかどうかを調べるという。
北里大学薬学部微生物学教室の金倫基教授(腸内細菌学・免疫学)らのグループは、食事が腸内環境に与える影響は多く研究されているが、水分に着目した研究はなかったことから、今回の実験を始めた。一般的に「水分不足で便秘になる」と言われているものの、それ以外の影響もあるのかを調べる狙いもあった。マウスは実験ごとに3~20匹ずつ使った。
マウスは1日3~5ミリリットルの水分を摂るとされている。通常のマウスと飲水を25%制限したマウス、50%制限したマウスの3群を用意して比較した。2週間制限すると体重が減って食欲がなくなり、排便量や便に含まれる水分量も減った。いずれの群でも脱水症状は起きなかった。
次に腸内細菌を調べたところ、飲水を制限した群では大腸内部の菌の総数が増えていた。大腸の表面を細かく観察すると、通常の群では免疫によって腸の細胞が守られていたが、飲水制限群では免疫に乱れが生じ、感染しやすい状態になっていた。特に50%制限群では、免疫のバリア機能が失われていた。
また、マウス特有の腸管病原性大腸菌を感染させたところ、通常群より制限群のほうが菌の排出に時間がかかった。具体的には、通常群は12日目から菌の数が減り始めたが、制限群は18日目から減少し始め、6日間も差が出た。その理由を調べたところ、病原細菌を排除したり、腸内環境を整えたりするための「Th17」という細胞が制限群では有意に減少していたためだった。
次に、水分不足がTh17に与える影響を詳しくみるため、細胞表面にある水分を取り込むためのタンパク質「アクアポリン3」を欠損した群と通常群を準備し、細胞を観察したところ、アクアポリン3がなくなるとTh17も併せて減少することが分かった。これは、水分摂取がTh17細胞の存在に重要な役割を果たしていることを意味している。
これらの結果から、水分が不足すると腸内環境が悪化し、免疫の機能がうまく働かなくなり、感染症にかかりやすくなったり、感染した場合に菌の排出に時間がかかったりすることが分かった。金教授は「食物繊維や乳酸菌は腸に重要だと言われてきたが、水分も同じくらいに大切だと分かった」という。
水の必要量はヒトの場合1日2.5リットル程度と推定されている。今後はヒトについての実験を行いたいとし、「食事からも水分が摂取できるとはいえ、十分な水分量がとれている人は少ないのではないか。暑くなると水分不足になりがち。水のとり過ぎは水中毒や低ナトリウム血症になるリスクがあるが、不足も脱水のみならず、腸へのリスクと考えられる」とした。とりわけ、水分不足を自覚しにくい高齢者や乳幼児は普段から意識的に多めの水分をとった方が良いのではないかと金教授は話している。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と東京財団政策研究所、山形県鶴岡市と、科学技術振興機構(JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)などの助成を受け、慶応大学と共同で行った。成果は米科学誌「アイサイエンス」電子版に5月16日に掲載され、同21日に北里大学などが発表した。
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