キヤノンは6月18日、ペロブスカイト太陽電池の耐久性および量産安定性の向上に寄与することが期待される高機能材料を開発したことを発表した。

色素増感太陽電池の一種で透明度が高く、軽量かつ曲げられるといった特徴を有するペロブスカイト太陽電池。室内光でも発電できるため、次世代の太陽電池として活用が期待されているが、ペロブスカイト層(光電変換層)中の結晶構造は、大気中の水分、熱、酸素などの影響を受けやすく、耐久性が低いことが知られているほか、大面積のペロブスカイト太陽電池は量産安定性が低いという課題があり、こうした課題解決のために、光電変換層を被覆する膜が必要であると考えられるようになっている。

今回、同社ではそうしたニーズに対応するべく、複合機やレーザープリンターの基幹部品である感光体の開発を通して培ってきた材料技術を応用することで光電変換層を被覆する高機能材料の開発に挑んだという。開発された材料は、従来手法で形成された場合の被膜層(数十nm程度)に対し、100-200nmの厚みを形成することが可能で、実際にペロブスカイト太陽電池の発明者である桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授らとの共同研究を通じて性能評価を行った結果、開発した材料がペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に寄与する可能性が実証されたとするほか、量産安定性の向上も期待できることが確認されたとしている。

  • 高機能材料を積層したペロブスカイト太陽電池の構造

    今回開発された高機能材料を積層したペロブスカイト太陽電池の構造 (出所:キヤノン)

これらの結果を受けて宮坂特任教授は「ペロブスカイト太陽電池の層構造の中に、この新規の高機能材料による層を追加することで、ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた課題の解決が期待できる」とコメントしている。

  • ペロブスカイト太陽電池の断面図
  • ペロブスカイト太陽電池の断面図
  • 今回の研究で開発された高機能材料を積層したペロブスカイト太陽電池の断面図とその電子顕微鏡写真 (出所:キヤノン)

なお、キヤノンでは今後、ペロブスカイト太陽電池の量産に取り組む企業との協業を目指して2024年6月より同材料のサンプル出荷を開始するほか、さらなる技術開発を進めていくことで2025年の量産開始を目指すとしている。

また、今回のキヤノンと桐蔭横浜大学の共同研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が発行する、査読付き国際学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載されている。