政府は、夏のボーナスのタイミングに合わせて、1人4万円の定額減税を実施する。概算で3.2兆円規模の減税額とされる。
テレビのインタビューでは、この減税額を何に使いますか、と質問された人が「旅行にでも行こうかな」と答えていた。しかし、筆者はほとんどの国民は定額減税分がどのように還元されるかを知らないと思う。例えば、1世帯3人で12万円=4万円×3人が一気にボーナスと一緒に支払われる訳ではない。4万円のうち地方税を還元する部分は、7月から11回に分割して毎月手取り収入を増やすことになる。3人家族ならば、毎月2727円=3人×1万円÷11カ月の増加である。
問題は所得税の方だ。自分の支払っている所得税から減税分が、支払額の減少という形でキャッシュバックされる。例えば、2023年の総務省「家計調査」の勤労者世帯では、毎月平均の所得税負担は2.1万円である。これを6月、7月、8月、9月、10月と所得税分の還元額を戻し切るまで繰り戻す。9万円=3万円×3人をキャッシュバックするときは、6月2.1万円、7月2.1万円、8月2.1万円、9月2.1万円、10月0.6万円と分割して減税する形式になる。おそらく、平均的なケースでも、定額減税の戻しは4カ月間程度かかるだろう。
実は、この計算を担っている企業の総務担当者は極めて大きな負担である。中小企業では、経営者自身が給与計算の支払いをチェックして、その事務に忙殺されている。従業員の扶養家族は何人いるかを確認して、所得税分の払い戻しを進める。例えば、妻がパートで自社で働き、その人が夫の扶養家族の場合は、夫の企業の方で払い戻しを受ける。パートで扶養になっていない人は、払い戻しを受けるが、金額が少なくて年末までに3万円分のキャッシュバックを払い戻し切れない人も多いと推察される。その人は、自治体が払い切れなさそうな金額をみなし計算して、どこかのタイミングで別途支払うのだという。おそらく、自治体の計算を担う担当者も忙殺されるだろう。
岸田首相は、減税額を給与明細に明記するように指示した。そうした指示がなかったならば、従業員には減税されている実感がないだろう。今回の減税は分割されて、減税分を受け取っている実感がはなはだしく薄い。
筆者は、中小企業の経営者や税理士の人から「減税は一体誰のためにやっているのでしょうか?」と怒りの声を聞いている。筆者がまた来年もやるかもしれないと言うと、「二度とやってほしくない」という答えが返ってきた。
岸田首相は、9月末に自民党総裁の任期を迎える。それまでに何とか自身の支持率を上げたいのかも知れない。しかし、これほどに現場からの苦情が多く、かつ効果が怪しい政策をやっていると、逆に支持率は下がってしまうと思う。