武蔵野大学、明治薬科大学、帝京大学の研究チームは、水虫の原因真菌である「白癬菌」の菌糸成長に必要な分子を特定することに成功し、その阻害剤がヒトの爪における同菌の増殖を抑制することを発見したと発表した。
同成果は、武蔵野大 薬学部薬学科の石井雅樹 講師、同 大畑慎也 准教授、明治薬科大の松本靖彦 准教授、帝京大 医真菌研究センターの山田剛 准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱う学術誌「iScience」に掲載された。
日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019によれば、日本人の足の水虫(足白癬)の罹患率は21.6%と推計されており、日本にはおおよそ2500万人以上の罹患者がいるという計算になる。
そうした水虫を含むカビなどの真菌による感染症の治療薬はその数が限られており、新たな治療標的の発見とそれを標的とした薬剤開発が求められていることもあり、研究チームは今回、白癬菌の成長に必要な分子を探索するため、生物一般の細胞機能制御に必須のタンパク質である低分子量「Gタンパク質」に着目。事前の検討により、Gタンパク質「Cdc42」および「Rac」が菌糸成長を促進することが示唆されたことから、遺伝子組換え技術を用いて、Cdc42の発現量の抑制に加え、Racの欠損が行われたところ、野生株(遺伝子組換えをしていない元の菌株)と比べ、顕著に培地上での成長が抑制されることが確認されたという。
Gタンパク質はその名にGとあるとおり、核酸のRNAを合成する基質である「グアノシン三リン酸」(GTP)と、そこからリン酸基が1つとれた「グアノシン二リン酸」(GDP)と結合するタンパク質で、GTPに結合すると細胞内シグナルをONに、GDPと結合すると細胞内シグナルをOFFにする細胞内シグナルのスイッチとして機能しており、このスイッチを切り替えることで、たとえば増殖のONとOFFを切り替えることができることがわかっている。
このONとOFFのスイッチの切り替えを担うタンパク質が「グアニンヌクレオチド交換因子」(GEF)であり、タンパク質のアミノ酸配列情報を基に、白癬菌Cdc42およびRacのGEF(Cdc24)が特定され、その発現を抑制したところ、菌糸成長が抑制されると同時に、細胞の形態や細胞の骨格タンパク質アクチンの局在に異常を来たし、死細胞が増加することが示されたという。
また、化合物を用いて白癬菌Cdc42およびRacの機能を阻害することを目的に、ほ乳類のCdc42もしくはRacを阻害することが知られる薬剤の中から、白癬菌Cdc42およびRacを阻害することが可能な化合物の探索が行われた結果、低分子化合物「EHop-016」が白癬菌Cdc42およびRacを試験管内で阻害し、培地での白癬菌の増殖も抑制することを見出したという。さらに、白癬菌の胞子懸濁液を爪の上に塗布し、EHop-016をさらに塗布した爪では、白癬菌の増殖が抑制されることも見出されたとする。
なお、これらの結果を踏まえ研究チームでは、今後の新たな水虫治療薬の開発につながる成果となることが期待されるとしている。