NECは6月17日、Beyond 5G/6Gに向けて、安価に安定したミリ波通信ネットワークを構築できる1-bitファイバ伝送方式の光ファイバ無線システムを開発し、実証に成功したことを発表した。

この方式により、汎用デジタル通信向けの電気-光変換器を使って高周波アナログ信号を伝送し、小型の分散アンテナユニットを低コストで実現でき、遮蔽物が多い環境でも安定したミリ波通信が安価に実現するとしている。

  • 光ファイバ無線システムを用いたミリ波モバイルネットワーク

    光ファイバ無線システムを用いたミリ波モバイルネットワーク

低コスト化を実現する光ファイバ無線システム

ミリ波技術を活用した高速ワイヤレス通信はBeyond 5G/6Gの主要技術として期待されている。特にモバイル通信トラフィックの約80%が屋内で発生するため、屋内対策としてミリ波の利用が検討されているが、ミリ波帯は大きな伝搬損失と高い直進性を持つため、十分なサービス品質を実現するために基地局と端末間の見通しを確保することが必要となる。

こうした課題を解決するには、端末と直接データを送受信する分散アンテナユニット(DA)の高密度設置が効果的だが、DAのサイズ、消費電力、設置コストが課題となっている。そこでNECはDAの小型化、低消費電力化、低コスト化を実現する光ファイバ無線システム(RoF)とその伝送方式を開発した。

従来のRoFシステムは、デジタルRoFとアナログRoFに分類され、デジタルRoFは無線ユニット(RU)で生成されたデジタル信号をファイバを通じて分散アンテナユニット(DA)に伝送するが、DAにはデジタル信号処理デバイスやデジタルーアナログコンバータ(DAC)が必要で、消費電力が大きくコストも高くなる。

一方、アナログRoFは、RUで生成された高周波アナログ信号をそのままファイバでDAに伝送するが、アナログ信号向けの高い線形性が求められる専用の変換器が必要となり、これもコストがかさむ。

そこでNECは、1-bitファイバ伝送方式と、それを用いた1-bit RoFシステム(1-bit RoF)を開発。この方式では、高周波アナログ信号を1-bitパルス信号に変換してファイバで伝送し、フィルタを介してアナログ信号を再生することが可能。

この方式を用いた1-bit RoFでは、デジタルRoFと同様に安価な汎用電気ー光変換器を用いることが可能となり、同時にアナログRoFのように高価なDAにDSPやDACを必要としないため、1-bit RoFはデジタルRoFとアナログRoFの長所を兼ね備えたシステムだとしている。

  • 提案の1-bit光ファイバ無線システム

    提案の1-bit光ファイバ無線システム

雑音・歪特性に優れたベクトル分解方式を開発

1-bit RoFの実用化には、1-bit変調器の信号対雑音・歪特性が低いという課題があったが、NECはダウンリンク向けの1-bitファイバ伝送方式として、雑音・歪特性に優れたベクトル分解方式を開発。

また、アップリンクにおいては、1-bitファイバ伝送で発生する信号歪をキャンセルし、元の信号を再生するデジタル再生方式を開発し、ダウンリンク・アップリンクの双方向において、1-bitファイバ伝送時の信号対雑音・歪特性の劣化を抑制することに成功した。

また、今回開発した1-bit RoFシステムがモバイル通信規格へ適合することを確認するため、新たに無線ユニットと小型DAで構成される40GHz帯向け光ファイバ無線試作機を開発。実証の結果、適合が確認されたという。

これにより、小型・低コストなDAを高密度に設置することが可能となるほか、DA-端末間の見通しが確保できるようになり、ミリ波通信環境の改善が期待できるとしている。

  • 40GHz帯分散アンテナユニット

    40GHz帯分散アンテナユニット