インテルは5月26日、AI PCで動作するソフトウェア開発のアイデアソン「インテル Future Tech アイデアソン 2024」を開催。優秀作品は、6月6日に開催される「インテル AI Summit Japan」で紹介された。会場となった東京都千代田区の大手町ファーストスクエア「LIFORK大手町」には26名のソフトウェア開発者が集い、互いの知見を共有しながらアイデアをまとめていた。

  • 5月26日にLIFORK大手町で開催された「インテル Future Tech アイデアソン 2024」

日本でAI PCの可能性を広げるために

一昔前はまだまだ未来の技術だったAIも、ここ数年で急激に普及した。一般的に知られるようになった大きなきっかけは、やはりOpenAIの「ChatGPT」だろう。現在ではMicrosoftの「Copilot」、Googleの「‎Gemini」などを通して、多くの人が気軽に生成AIに触れることができる。生成AIの大多数はクラウドアクセスを基本としており、ユーザーもレスポンスの良さを求める。今後はコストもレイテンシも増大していくことになるだろう。

だが、AIの使われ方はそれだけではない。実はAI活用の8割はビジネス向けであり、さまざまな機器・サービスにAIが活用されている。「Teams」や「Zoom」の映像・音声補正などはもっとも身近な例と言えるだろう。このようにバックグラウンドでAIが使われる場合、可能な限り消費電力を抑えられるのが理想だ。

今後は、Web閲覧履歴やメール履歴といったパーソナルデータを用いて、個人の知見や経験に基づいたアドバイスを返すという、真の意味でのパーソナライズサービスも誕生することになるだろう。

こういったAIの活用に向けて、現在各社がAI向けプロセッサーの開発に取り組んでいる。インテルが、AI処理に特化したプロセッサー「NPU(Neural network Processing Unit)」を搭載した新しいインテル Core Ultra プロセッサーを開発し、AI PCを推進する背景には、こういったパーソナライズサービスの誕生を想定し、同時に促進したいという思いがある。

インテルは現在、AI PCアクセラレーション・プログラムを展開しており、向こう2年間でおよそ1億台のインテル Core Ultra プロセッサー搭載PCを出荷していく予定でおり、このうち、日本に出荷されるのは約2000万台だ。

世界にはすでにAIを活用したPC用ソフトを作っている企業が続出しているが、日本ではまだ数少ない。そのため、日本でもAIの可能性に気づいてほしいという思いから開催されたのが、「インテル Future Tech アイデアソン 2024」となる。

ローカルでAIが動くことの意味

「インテル Future Tech アイデアソン 2024」に参加した26名のソフトウェア開発者に求められたのは、インテルが無償で提供しているAI PC向けソフト開発ツール「OpenVINO」とインテル Core Ultra プロセッサーを活用したソフトウェアのアイデアだ。

審査基準は「インテル Core Ultra プロセッサー搭載AI PCの性能を最大限に生かす革新性」「商業的潜在価値とスケールの可能性」「実装可能性」の3点。審査員として、サイバーエージェント・キャピタルの速水陸生氏、ディープコアの三宅俊毅氏、Scrum Venturesのマイケル松村氏、インテル 執行役員 マーケティング本部長の上野晶子氏、同技術本部 部長 工学博士の安生健一郎氏、同技術本部 テクニカルマーケティングエンジニアの伊藤朋哉氏が参加し、論評を行った。

  • 審査員として参加したサイバーエージェント・キャピタルの速水陸生氏(左)、Scrum Venturesのマイケル松村氏(中央)、ディープコアの三宅俊毅氏(右)

開会のあいさつを行ったインテルの安生氏は、NPUのアーキテクチャとAI PCのユースケースについて説明。現時点で分かっている使われ方として「プロダクティビティ」「セキュリティ」「コラボレーション」「クリエイティビティ」を挙げるとともに、「キーボードやマウスだけをインプットと考えず、Webカメラやマイク、各種Bluetooth機器などさまざまなデバイスが繋がっていることを想定すると良い」と、参加者にアドバイスを送る。

  • インテル 技術本部 部長 工学博士 安生健一郎氏

加えて日本のPC市場の現況を解説することで、参加者に発想の糸口を提示した。

  • AIの負荷ごとに最適化されたプラットフォームとそれらを支えるソフトウェアフレームワーク

チームごとに思考の組み立て方に個性

26名は5つのチームに分かれ、ブレインストーミングセッションに入る。ブレインストーミングでの目標は、多数(100個)のアイデアを出すこと、組み合わせたアイデアを深掘りすること、ソフトウェアとしての要件定義、マネタイズするための道筋という4つだ。

各チームはアイデアを付箋に書き込み、机やホワイトボードに貼り付けながらアイデアを整理していく。知人が集まったチームもあれば、初見のメンバーが集まったチームもあり、各チームの思考の組み立て方が異なっていたのが特徴的だった。

ブレインストーミングセッションは休憩を挟んで計4回、それぞれ50~60分の時間が設けられており、かなりの長丁場だ。しかし参加者は疲れた様子を見せることも無く、ときには場所を変えて考えを練ったり、昼食の時間も熱心にアイデアをぶつけ合ったりしながら、発表に向けた準備を進めていった。

  • 発表に向けてラストスパートに入る各チーム

そして迎えたプレゼンテーション。プレゼン資料も各チームの個性が反映されており、書式はさまざまだ。情報検索や進捗管理といったビジネス領域だけでなく、教育に関連するものなど、限りある時間の中で知恵を振り絞ったアイデアが発表される。これに対して審査員は、発想の良い点をしっかりと評価しつつも、類似するサービスやマネタイズの方法についてするどく品評していく。自由な発想とともに緊張感も漂うプレゼンテーションに、その場の全員が熱心に耳を傾けていた。

  • 評価すべき点を評価しつつ、ビジネスに求められるポイントはしっかりと問う審査員たち

最優秀賞に輝いた「教育支援向け課題解決支援AI」

どのチームのアイデアも甲乙付けがたく審査は難航。予定時間を超えた審査の結果、最終的にFチームの「教育支援向け課題解決支援AI」が最優秀賞の栄光を勝ち取った。次点の優秀賞はBチームの「AI Intern」。

  • 長引く審査の中、固唾をのんで結果発表を待つ参加者のみなさん

このFチームとBチームには一人一台「インテル Core Ultraプロセッサーを搭載したAI PC」が贈られるとともに、アイデアは6月6日に開催された「Intel AI Summit Japan」の1コマで発表された。

  • 「AI Intern」というアイデアで優秀賞を獲得したBチーム

  • 「教育支援向け課題解決支援AI」のアイデアで最優秀賞に輝いたFチーム

今回のアイデアソンを振り返り、インテルの安生氏は「私としては、皆さんが出してくれたアイデアの中に、まだまだ宝の山が隠されているんじゃないかと思っています。今回、仕方なく一個に絞りましたけれど、こういう風にアイデアは具現化してビジネス化していくんだ、というプロセスをやってみたつもりです。今後も、出てきたアイデアを深掘りするプロセスを継続して、ぜひそれぞれのチームもしくは個人でアプリケーションを作ってみてほしいと思います」と参加者に思いを伝えた。

最後に、インテルの上野氏が「私たちインテルは、みなさんの生活、それからライフスタイルを応援する会社でありたいと思っています。今日は楽しかったことも、悔しかったこともあるかもしれませんが、この思い出をずっと忘れないでいて欲しいです。もし、なにか私たちにお手伝いができるようなことがあれば、ぜひいつでもおっしゃっていただきたいなと思います。今日は本当にありがとうございました!」と激励の言葉を投げかけ、アイデアソンは幕を閉じた。

  • インテル 執行役員 マーケティング本部長 上野晶子氏

その後、会場は懇親会の場に変わり、参加者はそれぞれチームやライバルたちとの交流を楽しんだ。この出会いが新たなアプリケーション、新たなビジネスを生むきっかけになることを願いたい。