裕幸計装、九州大学、工学院大学、インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は6月13日、ベトナムにおいてエビ養殖から排出される汚泥を活用して温室効果ガス削減や電力の安定供給などを目指す「省エネ型エビ養殖統合システム」の実証を開始すると発表した。
実証実験の概要
今回の実証は、裕幸計装が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「脱炭素化・エネルギー転換に資する我が国技術の国際実証事業」の助成を受け、九州大学、工学院大学、IIJが委託先として参画し実施するものだ。
バイオマスを利用したグリーン電力とIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用した水質管理による生産性の向上を実現し、バイオマスの高効率なエネルギー転換、IoT技術によるリアルタイムの水質安定化、超微細気泡による酸素供給の実現、AIを用いたデータ解析による最適なエビ養殖手法の確立を目指すという。
ベトナムの実証フィールドの概要
実証実験を行うのは、ベトナム南部メコンデルタ地域のティエンザン省タンフードン地区。ティエンザン省はホーチミンから60キロメートルほど南に位置し、メコン川支流であるティエン川の北側にある立地の良さから周辺地域の政治と文化の中心地として機能する。実証は、現地のエビ養殖の大手事業者であるTuan Hien社と共同で進める。
実証フィールドの全体構成は以下の通り。まず、500立方メートルの稚エビ養殖池で数週間かけ稚エビを育成する。その後、1000立方メートルのエビ養殖池に成長したエビを移し、実証実験を行う。
実証フィールド内には、バイオガスの発酵資材となるレモングラス廃棄物の貯蔵庫、個体酸化物型燃料電池(以下、SOFC)の設置施設、17メートル長のゴムチューブ式バイオガス発酵槽も備える。
実証で使用するシステム
今回の実証においては、1立方メートル当たり500尾の養殖密度、生存率85%(年間平均生存率57%)を目指すという。なお、九州大学の栗原暁氏によると、従来の平均的な養殖密度は1立方メートル当たり150~200尾ほどだという。
また、IoTを活用した養殖システムの確立と定型化、エビ養殖統合システムの運用手法の確立と現地養殖事業者への啓発、省エネや二酸化炭素排出量の削減による持続可能な養殖技術の確立にも寄与するとのことだ。
省エネ型エビ養殖統合システムは、循環型エネルギー創出ユニットとエビ増産ユニットで構成。循環型エネルギー創出ユニットでは、エビ養殖で発生する排泄物などを含む汚泥とレモングラス廃棄物を用いて、バイオガスを発生させる。このバイオガスをSOFCに供給して発電し、この電力でエビ養殖に必要な曝気装置などを稼働させる。
エビ増産ユニットでは、IoTセンサーによって集めたデータをAIにより分析する。エビ養殖に最適な水質の管理を行うことで、生産性の向上と養殖事業者の収益性向上を図るという。
エビ増産ユニットにおいて、IoT機器を用いたデータの収集と可視化を担当するのはIIJだ。プラットフォームとしてAWS IoTを採用し、これをベースにデータ可視化やアラート通知のアプリケーションを開発したという。DO(Dissolved Oxygen:溶存酸素)濃度、pH、塩分濃度を測定可能なセンサーを、各実証養殖池に2つ投入する。