「健全な危機感をいかに復活させるか」パナソニックHD・楠見雄規に問われる実行力

根本的な課題は危機感の無さ

「キャッシュフロー(CF)重視の経営は定着したものの、各事業が当初の想定通りの収益力をつけることができなかった。株主や投資家をはじめとした皆様方の期待に応えられていない危機的な状況と認識している」

 こう語るのは、パナソニック ホールディングス(HD)社長グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏。

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 同社は現在、中期戦略の最終年度。2022~24年度までの累積営業CF2兆円、ROE(自己資本利益率)10%以上、累積営業利益1.5兆円の3つを目標に掲げているが、今のところ達成できそうなのは累積営業CFのみ。残り2つは未達となる見通しで、社長の楠見氏はこのような認識を示した。

 ただ、パナソニックHDの24年3月期の業績は、売上高8兆4964億円(前年同期比1.4%増)純利益4439億円(同67.2%増)と増収増益。数字を見れば最高益更新となり、そこまで悪くもない。

 もっとも、中身を見れば、米国で生産するEV(電気自動車)用電池が、インフレ抑制法(IRA)による補助金の対象となり、利益を1118億円押し上げた。この効果が大きく、楠見氏にとっても手放しで喜べる状況ではないということだ。

「津賀(一宏会長=前社長)の時代に比べて、構造的に劣後に回っている事業は減っている。ただ、それが数字に結び付いていない。根本的な課題は危機感の無さ。かつては競合に負けているというだけで大きな危機感を持っていた。それがいつの間にか、赤字でなければいいやとか、そんな危機感になっていないか。健全な危機感をいかに復活させるかだと思う」(楠見氏)

今まで以上にスピード感をもって…

 2021年6月の社長CEO就任以来、丸3年が経つ楠見氏。就任2年は競争力強化の2年とし、3年目に入った昨年、「成長のギアを入れる」と宣言した。

 楠見氏はギアチェンジの進捗について、「舵を切れたものもあれば、切れなかったものもある。もう一段違うギアを用意して、しっかりと財務諸表に関するガバナンスを利かせていくという別のギアも切った」と話す。

 ただ、パナソニックHDの5月末時点の株式時価総額は約3.3兆円。一方、ソニーグループの24年3月期の売上高は13兆207億円で、日立製作所は9兆7287億円。時価総額はそれぞれ15.7兆円、14.8兆円で、パナソニックHDとは大きな開きがある。

 足元のPBR(株価純資産倍率)は約0.7倍。PBRは株価の割高・割安を判断するのに使う投資指標で、前述の通り、PBR1倍割れがずっと続いているのは〝危機的〟な状態だ。

 楠見氏は「当社が30年間成長してこなかったのは上意下達の風土。お客様へのお役立ちを通じて、お客様に喜んでいただき、適切な利益をいただくことが目的なのに、それとかけ離れていた。いつしか、言われたことをやるのが仕事だという誤解が生まれてしまっていたが、言われたことをやるのが仕事ではない。一人一人が任務を遂行するために、より良き方向や手段を生み出し、そこに積極果敢に挑戦していく会社にしたい」と語る。

 だが、社長就任4年目となる楠見氏に必要なことは、もはや過去の分析ではない。社内では「歴代トップとはスピード感が違う」と評される楠見氏だが、現状で他社より劣後しているのであれば、さらなるスピードアップが必要だ。今の楠見氏に求められるのは、今まで以上にスピード感をもって構造改革を断行し、それに向かって結果を出す実行力なのだろう。

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