冬眠中のシリアンハムスターは爪の伸びが止まる一方、爪自体に異常は生じず綺麗に保たれていることを北海道大学などの研究グループが発見した。哺乳類の爪は根元にある幹細胞が分裂と分化を繰り返すことで伸びる。冬眠の極端な体温変化では細胞分裂が停止するにもかかわらず組織構造を維持する仕組みを調べることで、人の爪の健康にもつながる知見が得られる可能性があるという。
哺乳類の爪は、病気や栄養不足といった過度なストレスがかかると変色や変形が起きることが多い。冬眠をする小動物は、体温が外気温近くに下がる。北海道大学低温科学研究所の山口良文教授(分子冬眠学)らはこの低体温状態というストレス下で、爪に何か変化が起こるのかどうかを、調べることにした。
山口教授らは実験動物であるシリアンハムスターの飼育環境を気温23~25度、光で昼の時間を長くして夏を模した条件から、気温5度、夜が長い冬のような条件に切り替え、冬眠を促した。実際に冬眠したハムスターと冬眠しなかったハムスターともに爪の根元に青い色素で線を引き、一定期間後にまた線を引いて、どれだけ爪が伸びたかを計測した。
その結果、冬眠していないシリアンハムスターの爪は1日あたり約70マイクロメートル(1マイクロは1000分の1ミリ)伸びていたが、冬眠中だと約10マイクロメートルしか伸びなかった。爪の幹細胞集団の分裂能力を表す指標を調べると、体温が外気温程度に下がっている深冬眠のハムスターでは細胞分裂する細胞数が減少していた。
一方、シリアンハムスターでは、何日かおきに、冬眠中に体温が上がって餌を食べるなどの活動をする中途覚醒が起きるが、中途覚醒時には爪が伸びていることも分かった。
冬眠中に爪の幹細胞の分裂が止まって爪が伸びなくなると、横縞が入ったり、爪の一部がへこんだりする異常が起きる可能性があるが、ハムスターの爪に異常はなく、冬眠後も冬眠前と同様に伸びるようになっていた。理由は不明だが、中途覚醒の際の活動時に爪が正常に維持されているのは利点がありそうだとしている。
爪は皮膚が多様化して生じた構造で、皮膚と多くの共通点もある。「冬眠中に外気温ほどに体温が下がるハムスターの皮膚で凍傷が起きない仕組みも興味深い。冬眠する動物の爪や皮膚を調べることで冬眠しないヒトをはじめとした動物の爪や皮膚の健康維持にもつながる知見が得られるかもしれない」と山口教授は話している。
研究は、4月27日付けの生理学専門誌「ジャーナル オブ フィジオロジカル サイエンス」に掲載され、北海道大学が5月13日に発表した。
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