米ボーイング社の宇宙船「スターライナー」が2人の飛行士を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)に初めて到着し、有人試験飛行の往路を成功させた。米国は2011年に廃止したスペースシャトルに代わる有人船2機種を、民間企業が主体となり開発。既に本格運用中のスペースX社「クルードラゴン」と合わせ、ISS計画における2機種による安定した有人飛行に道を開いた。2機種は並行して開発したが、スターライナーは無人試験飛行でISSへの到達に失敗するなど“周回遅れ”となっていた。
米航空宇宙局(NASA)やボーイング社の発表によると、スターライナーは大型ロケット「アトラス5」に搭載され、日本時間5日午後11時52分に米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられた。約15分後に第2段ロケットから分離され、打ち上げは成功した。
アトラス5は、ボーイング社とロッキード・マーチン社の合弁であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス社が運用。2002年の初飛行から全て成功しており、初めて人を乗せた今回が100回目となったという。主エンジン「RD180」はロシアで開発されている。
スターライナーはその後、エンジン噴射を重ね、打ち上げの約32分後、ISSに向かう軌道に無事投入された。高度約400キロを周回中のISSに徐々に接近し、7日午前1時15分のドッキングを目指した。
しかし飛行中、エンジン機構のヘリウム漏れやエンジン5基の故障が判明。このうち4基を復旧させ、予定を1時間以上遅れ同2時34分、日本実験棟「きぼう」に隣接する「ハーモニー」棟にドッキングした。気密性の確認や電気系統の接続などを経て扉が開かれ、同4時45分、搭乗した米国のバリー・ウィルモアさん(61)、サニータ・ウィリアムズさん(58)がISSに乗り込んだ。2人はISSに1週間滞在した後、スターライナーで米西部の5つの候補地域のいずれかに着陸し帰還する。
会見したNASAのジム・フリー副長官は「この数日は興奮した。NASAとボーイング社のチームに感謝とお祝いを伝えたい。宇宙飛行を前進させることは容易ではないが、われわれの国家の価値を高め、科学を通じて人々の暮らしをよりよくする。スターライナーはISSによる利益を最大化するために重要で、将来の深宇宙探査にも知見を与える。引き続き、ISSでの運用と地球帰還を楽しみにしている」と述べた。
スターライナーはアポロ宇宙船のように円錐(えんすい)状の司令船と、円筒形の機械船がつながった構造で、直径約4.6メートル、高さ約5メートル。定員は7人だが、ISS本格運用では4~5人で飛行する。司令船は再使用型で、10回の飛行に耐える。クルードラゴンがアポロ司令船と同様に海上に帰還するのと違い、パラシュートとエアバッグを開いて陸上に帰還するのが特徴だ。
シャトル廃止で独自の有人船を失った米国はその後、運賃を支払ってロシアの「ソユーズ」を利用した。NASAは2014年、有人宇宙船の開発、運用を委ねる契約を、スペースX社とボーイング社との間で、それぞれ26億ドル、42億ドルで締結した。当初は15年にも有人試験飛行を行う計画だったが、開発は大幅に遅延。クルードラゴンは20年5月、有人試験飛行でISSに到達し、同年11月から本格運用が続く。日本人も既に4人が搭乗している。
一方、スターライナーは困難を重ねてきた。2019年12月に無人試験飛行に挑んだが、ロケットから分離後、エンジン噴射のタイミングがずれてISSに到達できないまま地球に帰還した。その後、エンジンの酸化剤と水分の反応によるバルブの固着などで再試験の延期が繰り返され、22年5月にISSに到達している。
その後は有人試験飛行の準備を進めたが、パラシュート機構の強度不足、船内の配線保護テープの可燃性の問題が判明し、先送りに。いったん先月7日に予定されたものの、アトラス5のバルブの異常、スターライナーのヘリウム漏れ、地上コンピューターの電源の問題で延期が繰り返されてきた。
延期のあった先月7日、クルードラゴンのスペースX社を率いるイーロン・マスク氏はX(旧ツイッター)で「ボーイングには技術系でないマネジャーが多過ぎる」と投稿し、スターライナーの開発遅れを皮肉っている。
スターライナーの本格運用初号機には、未発表ながら、日本の油井亀美也(ゆい・きみや)さん(54)が搭乗するとみられている。
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