ストレスを受けたマウスはエサの場所が複数あっても1カ所に偏って摂食する行動を示すことを滋賀医科大学の研究グループが実証した。一般的にストレスで大量に食べる「過食」や食欲が無くなる「拒食」になることはあるが、食べ方にも変化が生じることが分かった。今後、ヒトにも応用できるか検討し、AI(人工知能)とセンサーを使って、その人固有の食べ方の些細な変化でストレスを可視化することを目指すという。

ストレスによる過食や拒食は食事の量に着目し、個人差も大きい。滋賀医科大学神経難病研究センターの藤岡祐介助教(神経内科学)の研究グループは、食べる順序やどの食品を優先的に食べるかといった「食事の質」の変化にも目を向けてはどうかと考えた。

藤岡助教は日頃、外来診療で認知症やパーキンソン病の患者を診ている。患者の家族や介助者から「(主食とおかずを交互に食べる)三角食べができなくなった」「食べ方が変わった」という声が寄せられることが多かった。患者の様子を観察すると、食べ方にムラや変化がある。しかし、実際にストレスや疾患で食べ方が変わるかどうかを科学的に説明できる研究がなかったため、マウスによる実験に着手した。

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    今回の実験で分かったストレスと食べ方の関係図。ストレスを受けることで食べムラが生じている(藤岡祐介助教提供)

通常のマウスと、弱いストレスを与えたマウスを用意し、半径30センチメートルの半円の形をした桶の中に入れ、4つの餌場を等間隔に置いて食事の様子を観察した。ストレスは、狭い袋に閉じ込めて数時間拘束する、1週間1匹だけで隔離する、2日に1回マウスが大好きな高脂肪食を2週間与えた後、突然与えないようにする、という3つのタイプを準備した。「強いストレス」ではヒトと同様に食事を受け付けなくなったり、過食したりする可能性があるため、ヒトに置き換えると「少しストレスを感じる」程度にしたという。

その結果、ストレスを受けたマウスは、エサを食べてもドーパミンの濃度がほとんど変わらないことが分かった。ドーパミンは快感や多幸感を与える神経伝達物質のひとつ。通常のマウスでは、摂食すると一気にドーパミン濃度が上昇した。

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    不安・不満・身体的の3つの弱いストレスにさらされたマウスはエサを食べてもドーパミン濃度が上がらなかった。通常のマウスはドーパミン濃度が上昇した(滋賀医科大学提供)

さらに、ストレスを受けたマウスは同じエサが均等な距離で置かれているにもかかわらず、4カ所のうち1カ所にこだわってエサを食べることが観察できた。通常のマウスは4カ所の餌場を同じ頻度で食べ、1カ所にこだわることはなかった。これらの様子を撮影したビデオを詳しく分析すると、ストレスを受けたマウスの方が咀嚼している時間も長かった。ただし、過度のストレスを与えないように観察時の介入を極力減らしたため、咀嚼時間が長くなったのは、一度に食べる量が多いからか、よく噛んで食べているためなのかは分からなかったという。

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    通常のマウスとストレスを受けたマウスのエサの場所へのこだわりの比較。ストレスを受けたマウスは1カ所で集中してエサを食べていた(滋賀医科大学提供)

藤岡助教はこれらの結果を踏まえ、今後はヒトでのストレスや疾患と食事の摂り方の関係について研究を続けるという。「今回のマウスのように、ヒトもストレスを受けた場合に、例えば一つの皿に固執して食べたり、食べる順序が長年の習慣と異なったりすることが分かると良いと思う。例えば、小型のセンサーでその人の食べ方のくせをAIで覚えさせ、通常と異なるパターンが検出されるとアラートで知らせるような端末が開発できれば、ストレスの可視化や、脳神経に関わる病気の早期発見につながるのではないか」とした。

成果はスイスの科学誌「フロンティアズ イン ニューロサイエンス」に5月9日に掲載され、同月20日に滋賀医科大学が発表した。

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