「やったことないからできませんとは言いたくない」。この信念を大事にして、実際に難題にチャレンジし、遂行してきた鎌田氏。小回りの利く下請けから脱却し、サイバーセキュリティを中核に顧客のDX(デジタル・トランスフォーメーション)をフルサポートして事業拡大を目指す。その「勝ち筋」と、平均年齢30歳という若い会社における人材育成の要諦について鎌田氏に聞いた。
「令和の蟹工船」のような激務の日々
─ 鎌田さんは2017年にリブラスを起業しましたが、その経緯から聞かせてもらえますか。
鎌田 大学を卒業して、14年にSMBC日興証券に入りました。支店で営業などを経験して3年目に退職し、PwCコンサルティング合同会社に転職しました。そこで銀行や保険会社など金融機関向けのコンサルや営業を担当していました。
毎日のように午前3時頃まで仕事をしていて寝る時間もほとんどない状態でしたが、面白かったです。もともと自分で会社を興したいという思いがあり、約1年間PwCで働いた後、起業しました。
─ リブラスという社名の由来を教えてください。
鎌田 ラテン語の自由(リベラ)と誠実さ(シンセラス)を組み合わせた造語です。
法人ビジネスの現場では、「こういうことできない?」と聞かれることがあるじゃないですか。それに対して「やったことないからできません」という人もいるし、やったことがないのに自信満々に「できます」という人もいます。
私はどちらも好きじゃないのです。やったことはないけど、それは正直に伝えて、「ただ、こういうアプローチがあるからチャレンジさせてもらえませんか」という伝え方が大事だと思うのです。
自由で積極的に顧客の仕事を取りにいくことと、誠実さを大事にすることは矛盾しないと考えております。
─ その思いを社名に込めたということですね。起業して事業は順調に進みましたか。
鎌田 若いし信用もありませんので、当初は安い仕事しか受注できませんでした。ですので、数をこなさなければなりませんから、とにかく働きました。
一時期は午前3時に寝て7時に起きるといったような生活が続き、「令和の蟹工船」のような感じでしたね(笑)。
─ 当時は、ほぼ1人で仕事をこなす状況だったのですか。
鎌田 創業時点では1人で仕事をこなしておりましたが、現在COOを務めている翁との出会いで状況は大きく変わりました。翁は浙江大学を卒業して早稲田大大学院を出た優秀なエンジニアでして、出会った時はPwCコンサルティングに在籍しており、知人の紹介で知り合いました。金融のこともよく知っていて、プロジェクト管理やコンサルもできる頼れるパートナーです。彼がいてくれたおかげで、大変な時期を乗り越えることができました。
サイバーセキュリティを事業の柱に
─ チャレンジを積み重ねていくことによって、信用を勝ち得たということですね。
鎌田 はい。顧客のシステム開発で、要件定義開発テストや要件定義、詳細設計、開発、テストというステップがあるのですが、本来10カ月かかるところを4カ月でやってほしいと言われたことがありました。かなり大変な仕事でしたが、なんとかガッツでやりぬきました。
この時にお客さまから信用していただいて、次の仕事につながっていくようになったのです。
大手企業さんからも受注できるようになりました。ある時、とある経営者の方から呼び出されたことがありました。その際「サイバーセキュリティはできないか」と言われたのです。この時点ではサイバーセキュリティの経験はほぼないに等しく、さすがに返事に困りました。システム開発とサイバーセキュリティは、まったく別物なのです。レストランでいうと、ホール業務とキッチン業務くらい違うのです。しかし「やったことがないからできません」と言ったら二度と仕事がもらえないと思い、「やったことはないのですが、チャレンジさせてください」と訴えて受注しました。
─ 具体的にはどう取り組んできたのですか。
鎌田 サイバーセキュリティの脆弱性診断と侵入テストです。わかりやすく言うと、システム版人間ドックとなるでしょうか。
システムは日々ハッキングの脅威にさらされています。そこで私たちは、定期的にシステムの穴を見つける脆弱性診断と、実際に穴が見つかったら侵入してどこまで攻撃できるかを確認する侵入テストを行います。それらをレポートにまとめて顧客の安全性向上に役立てていただくのです。
─ 初めての、しかも大きな仕事を完遂できた要因は何だったのですか。
鎌田 先ほどお話した通り、COOが優秀なエンジニアですので、レベルの高いエンジニアのネットワークを持っています。そうした方たちの力も借りながら、プロジェクト自体は大変でしたが、乗り切ることができました。
─ 現在、サイバーセキュリティが事業の柱の一つになっています。
鎌田 はい。私たちが元請けになることもありますし、二次請けになることもあります。大手企業の仕事も急増しております。
近年はサイバーセキュリティ対策が必須になっています。その状況下、小回りが利いてコストパフォーマンスが良い当社を選んでいただける機会が増えてきました。
─ 世の中全体でサイバーセキュリティに対する意識も高まってきましたね。
鎌田 これからDXが進むと、ますますその重要性が高まってきます。
DXが進むと業務自動化等でコストを削減できることや、デジタルを活用したサービスにより収益が拡大される利点が強調されますが、一方で、データを膨大に所有することになりますので、そうしたデジタルアセットを外部から守るサイバーセキュリティも比例して重要になってくるのです。
─ 紙に書かれた情報を盗むのは難しいですが、電子化されると世界中から狙われる状態になります。
鎌田 おっしゃる通りです。会社の信用は、一度失われると取り戻すのが大変です。
─ 今後IoTがどんどん普及すると、ハッキングされた場合、社会全体に与える影響も甚大になります。
鎌田 たとえばテロリストが自動運転車をハッキングすることを想像してみてください。一つの社会全体を大混乱に陥れることだって可能になるのです。
若手でもすぐにバッターボックスに立てる
─ 鎌田さんが会社を設立して7年目になりますが、陣容は何人の規模になりましたか。
鎌田 業務委託も含めて70人強で、エンジニアが大半を占めています。
今は小さい会社で歴史は浅いけれども、少数精鋭の集団だというブランディングを大事にしています。優秀なエンジニアはレベルの高い人材のネットワークを持っており、そうした方たちの紹介で優秀な人材を獲得できています。
─ 平均年齢は。
鎌田 約32歳です。新卒も採用しています。インターンも受け入れているのですが、中には大手企業を断って当社に入社する学生もいます。
─ それはどういう理由ですか。給料は大手の方が高いでしょうし、知名度が高い会社を選ぶ人が多いと思いますが。
鎌田 当社の場合、規模が小さいこともあり、わりとすぐバッターボックスに立てることが大きなポイントになっていると思います。
大手企業の場合、プロジェクトマネージャーになるのに5年から10年かかると言われているのですが、当社では本人の力量を推し量りながら、若手のうちからプロジェクトマネージャーなど、より責任のある立場に任命し、プロジェクトを推進するようにしております。
プロジェクトマネージャーを経験すると、目の前の仕事をこなすだけではなくて、利益率や人の稼働状況を考えるなど視野が広がって、本人たちにとって非常に勉強になります。
─ 若い人たちの意欲と才能を引き出すのですね。
鎌田 はい。その際に重要なのは「裁量と報酬と責任をセットにする」ことだと思っています。
世の中の仕事って、どれかが欠けていることが多いのではないでしょうか。裁量はあるけど給料が安いとか、給料は高いけど決まった仕事しかさせてもらえないとか。ですので、この3つを最大化させることがモチベーションを高め、パフォーマンスの質を高めるのだと思って人材育成を行っております。
「非完全市場」を主戦場に
─ 事業構造を教えてください。
鎌田 主にシステムエンジニアリング領域、特にサイバーセキュリティとシステム開発での収益が主となります。
─ 一般的にシステム開発よりもサイバーセキュリティの方が利益率は高いと言われていますが、そうなのですか。
鎌田 そうですね。業界の相場が確立されていないことも理由の一つです。社会や取引先からの要請もあって、費用がかかってもいいから早く対策を打ってほしいという要望も少なくありません。
─ そういうマーケットの場合、他社に先行して利益をとっていくことが重要ですね。
鎌田 BtoBで私が大事にしていることは、「非完全市場」で戦っていくということです。代わりのプレーヤーがいなくて、かつ、情報格差が大きいマーケット。この場合、提供者、ベンダーの利益が最大化されるのです。逆に代わりがたくさんいて情報格差があまりないマーケットでは、低価格競争になってしまうと考えております。
ホームページの制作でいうと、30年くらい前は何百万円の仕事でした。それが今は30万円でも高いって言われるとこがあるくらいです。それは代わりのプレーヤーがいくらでもいるからに他なりません。
─ サイバーセキュリティの領域も、いずれ低廉化していくと考えますか。
鎌田 数十年など相当な長期スパンでは可能性はありますが、それほど早くはないと思っております。
理由の一つは、ハッキング技術は常に進化するからです。セキュリティ技術はそれを上回るレベルで進化していかなくてはなりません。常に最先端の技術を更新していかなくてはなりませんので、低価格競争に陥ることはないと思っています。
もう一つの理由は、人材不足です。エンジニア全体でも、すでに不足気味だと言われていますが、さらに特殊なセキュリティ領域となると、なおさら不足しているという状況です。
さらに言うと、AIに置き換えることが難しいのです。学習させるための元データがどんどん変わっていきますから。
─ 起業してから順調に成長しているようですが、今後どういう会社を目指していきますか。
鎌田 お客さまのデジタル化を一気通貫で支援していきたいと思っています。
ビジネス展開のご提案からシステム構築、マーケティング、データ分析を行い、サイバー攻撃のリスクの芽を摘んで、さらにビジネスを拡大していく戦略を策定する─。これらを私たち一社で完結することを目標に掲げています。
さらに、先ほどお話したように、当社の社員はエンジニアが大半ですが、これからは営業マンを増やしていきたいと考えています。
売り上げ10億円前後までは小回りの利く下請けでいた方が効率的で良い面が多いのですが、これから50億、100億を目指していくには、自分たちで積極的に仕事を取りにいく力を身につけ、元請け側に立つようにならなければなりません。
自社の文化を理解して積極的に営業できる人材を育てていくことが、今後課題になってきます。