茂木 友三郎・日本生産性本部会長 キッコーマン取締役名誉会長取締役会議長「政治と金の問題に向き合い、われわれ有権者も意識改革が必要です」

「政治と金の問題は、もう30年前に解決したはずだった。あまりお金をかけない政治の実現に向けて、この機会に社会全体で一度考え直す必要があるのでは─」こう語るのはキッコーマン名誉会長・令和国民会議(令和臨調)共同代表の茂木友三郎氏。自民党派閥主導の政治資金パーティーを巡る裏金事件が政界を揺るがしていることについて、令和臨調も政党改革などを求める緊急提言を行った。「政治家や各首長だけでなく、有権者である国民も巻き込み、理想的な社会に向けて行動を起こしていくことが必要」と茂木氏は強調する。

お金がかからない政治を

 ─ 令和臨調でも政治資金についての提言をされていますが、改めて今の政治の混迷をどう打開していけばよいのか、考えを聞かせていただけますか。

 茂木 政治と金の問題は、もう30年前に解決したはずだったのに、また出てきたというので、そういう意味では驚きましたね。政治にはお金がかかるという人は結構多く、確かにある程度はかかると思いますが、できるだけかけないようにすることが必要ではないかと思います。私の知るある政治家は、政治にはあまりお金がかからないと言っていました。

「他の人はわからないけれど、自分はお金がかからないんだ」と。それは、彼の生活の仕方にもよります。

 彼は平日東京で過ごして金曜日に選挙区に帰る生活をしていましたが、選挙区の事務所の裏に8畳間が一間あって、そこに自分で布団を敷いて泊まっていたそうです。

 2泊するときもあるし、1泊で帰ってくることもあると言っていました。そういう生活をしているから僕はお金がかからないんだよと。彼は政治資金パーティーもやったことがなかったそうです。

 国からもらう歳費を中心に政治活動をしていたんですね。もちろん、いくらかは支援者からの応援があったのかもしれませんが、パーティーで資金集めをしたことがなかった。

 彼が政界に入って25年たち表彰されて、そのお祝いの会を開催することになったとき、どうやってパーティー券を売るのか、やったことがないからわからないというわけです。

 非常に真面目な人でした。

 ─ やりようによってはお金をかけなくても済むのだと。

 茂木 ええ。そのやり方でも彼は大臣を2回やっていますし、とても立派な政治家でした。

 お金がかかるといっても、100人中100人がかかるわけではないということです。とはいえ、彼の場合はどちらかというと特殊なほうだと思いますが。ですから彼のまねをしろとほかの政治家に言うつもりは全くないのですが、しかし、やりようによっては、そんなにお金をかけなくても済むのかもしれないということですよね。

 そういう前提でやれば、あまり無理にお金を調達することもなくなるだろうし、まして隠す必要もなくなるはずです。

 それでもお金が必要な場合は、やはりオープンにして集めるべきです。

 ─ 隠すことが問題だと。

 茂木 ええ。コソコソやっては駄目なんですね。ですから、今回のことはそのような点について反省するよい機会になりました。つまり、政界の皆さんはできるだけ政治にお金をかけないようにする。お金がかかるものは収入も支出もオープンにすることが必要だと思います。

 それからあまりお金がかからない政治を実現できるように、有権者も含めて社会全体で、この機会に一度考え直した方がよいと思います。これは政治家だけの問題ではないですから。

 有権者である国民も考えて、余計なお金を政治家にかけさせないようにしていかないといけないと思います。

 ─ 有権者側も勉強が必要だと。そういう意味では、経済人、経済リーダーが率先してそういうことをやっていくことが大事ですね。

 茂木 そうです。民間、経済人が政治家の皆さんと協力して、そういう社会をつくっていかないといけない。

 ─ 政治家の人たちにいわせると、選挙区で国政報告をレターで出す場合、通信費として一人100円か200円としても10万人に出すと、1000万、2000万かかるんだと、よくいわれますね。

 茂木 そういうこともできるだけお金がかからないように、デジタルを利用するなどの工夫が必要です。

 大事なことは、すべてオープンにしていくということだと思います。こういうふうにお金を集めて、こういうことにお金をかけるんですよということを公にすれば、ちゃんと筋が通るわけです。

 ─ そうですね。やはり収入、支出をはっきりさせるという当たり前のことですね。

 茂木 政治と金の問題は、政治家だけの問題ではなく、われわれ国民サイド、有権者サイドも意識改革をしないと駄目だと思います。

 今回のことは派閥の問題もあるかもしれませんけれども、やはり各個人の問題ではないでしょうか。派閥の中で「みんなで渡れば怖くない」という流れもあったのかもしれません。

 ─ ええ、今回はそうだったかもしれませんね。令和臨調で、そのことについては、正式にまた提言されるんですか。

 茂木 本当は、お金の問題はもう30年も前に済んだ話なのでやるつもりはなかったんです。ですが、いまこうして問題が出てきてしまったので、提言を出すことになりました。

 統治構造部会で政治改革の一環として、もう意見は出していますが、これからさらに突っ込んでやっていくということになると思います。

政党の改革が必要

 ─ 失われた30年が終わり、2024年、金利のある世界に向かっていきますね。この転換期に、日本の構想、構造ビジョンといいますか、これはどうつくられていかれるかを改めて聞かせてくれませんか。

 茂木 失われた30年、日本はその間全く経済成長しなかったんですよ。その間に日本の力はどんどん弱まってしまった。アメリカにはずいぶん差をつけられてしまいました。なんとかまた経済を成長させなければいけないし、社会全体を上向きにすることが必要になってくると思います。

 今はこの30年間に積み上がったいろいろな問題が放置されたままになっているわけです。その放置された問題を解決しなければやはり上向きになりません。それを放っておくと、ヨーロッパやアメリカに見られるいわゆるポピュリズムが出てくることが心配されます。

 山積した問題を解決するには、強いリーダーが必要だということでポピュリズムに向かっていく国が多いわけです。幸いにして日本は今のところそれはありません。日本人はかつて、ポピュリズムにずいぶん痛めつけられたので、その危険性を知っていますから。

 ですから、日本ではそう簡単にポピュリズムが台頭するとは思いませんが、このまま問題が放置され続けると、ポピュリズムが出てくる可能性があります。今のうちに山積した問題を解決しなければ、日本の民主主義の持続可能性が問われると、われわれ令和臨調は危機感を持っています。

 そのため、経営者だけではなく、労働組合の幹部や学識者も一緒に勉強しようよと。そして、問題解決のためにどうすればよいかを考え、それを実行しようではないかと。

 実行するためには、政治の力も必要ですから、政治家の人たちとも連携しています。志を同じくする与野党の国会議員有志、八十数名による「超党派会議」が結成されています。

 いよいよ6月から第一期の3年目に入っていくわけです。

 ─ これは日本再生について、骨太のビジョンが出てくるといっていいんでしょうか。

 茂木 令和臨調の第一期が来年の6月で終わりますから、それまでに何か具体的な考え方を打ち出して、実現に向けて行動したいと考えています。一期で終わるのではなく、第二期、第三期と続いていくと思いますので、それをブラッシュアップして、実行に移していくと。

 ─ 議論の論点はどんなことになりそうでしょうか。

 茂木 令和臨調として、まず統治構造の部会では政党の改革を提言しています。政党改革というのは、あまり日本ではやっていないのです。

 ─ 政党改革の課題は何でしょうか。

 茂木 政党というものの位置づけが、日本ではあまりはっきりしないんですね。

 ですから、政党というのはどういう形であるべきだというようなことを、ガバナンスやお金の問題も含めてやろうということです。

 ─ 重要なところでは財政についてはどう考えますか。

 茂木 財政・社会保障について、日本の財政は非常に厳しい状況であるわけですが、これを社会保障と合わせてどうするか。

 将来世代への責務を果たすため、長期的な視点に立った政策・財政運営が重要です。財政収支や国民の負担について、長期推計を行う独立機関をつくるべきだという提言や、社会保障、特に医療・介護の歳出に関する提言を出しています。今のところ、財政・社会保障の部会が、一番多くの提言を出しています。それから、人口減少についても提言を出しています。

 ─ 今、最後に言われましたが、日本の課題、人口構造、人口減、少子高齢化、こういう流れのなかで生産性をどう上げるか。茂木さんは日本生産性本部の会長もやっておられますが、生産性はどう上げていくべきだと考えますか。

 茂木 人口は減るわけです。急に増やすというわけにもなかなかいかない。ですから、人口減少を前提にしてものを考えていかないといけないということです。人口が減る中で、どうやって生産量を増やしていくかを考えることは、すなわち生産性を上げていくという課題に結びつくわけですね。

 ─ AIを活用したりしてですね。東京だけに集中して、一方で地方の衰退という問題もあります。それがまた出生率の低下につながっているとか、地方の振興というのはどう考えていけばいいでしょうか。

 茂木 今までは地方分権や、地方の活性化をどう進めるかということで、いろいろな議論がされていたわけです。でもそれは人口が減るという前提ではなかったんですね。

 しかし、よく考えてみると、人口はどんどん減ってしまうわけで、特に地方のほうが人口の減り方が激しくなる見通しです。改めて、地方を活性化するにはどうしたらいいかということで、今、課題がさらに大きなものになっている。

 今までの地方活性化に加えて、人口は減るもの、減る中でどうするか。人口が減らないようにするにはどうしたら良いかや、減った上でもさらに活性化するにはどうしたら良いかなど、非常に課題が多くなっているわけです。ですから、この課題解決に取り組んでいかなければいけないということですね。

中国との関係をどう考えていくか?

 ─ 一方で世界を眺めると、混乱、分裂、戦争も起こっています。われわれにとっては、隣国・中国とどう向き合うかが問われますが、どういう基本スタンスで臨んでいけばいいですか。

 茂木 中国という国については、まず根本的に考え方が全く違うということを理解すべきです。違いをきちんと理解したうえでお付き合いをする必要があります。われわれは自由主義経済のほうが優れた経済だと思って、その中で仕事をしています。

 しかし、中国は自由主義経済ではありません。このことをきちんと理解しないで仕事をして「そんなこと知らなかった」と、あとで言っても遅いのです。制度が違うことを前提に、注意を払って仕事をすることが必要だと思います。

 ただ、中国を毛嫌いする必要は、まったくないと思います。全体主義と民主主義の制度の違いを認識したうえで、正々堂々とお付き合いをしていけばいいのではないでしょうか。

 ─ 厄介なのは、米中対立の中で安全保障という概念が入ってきて、これが経済取引の中に入ってきています。

 茂木 そうですね。それは非常に繊細な問題も含むので、そういう点は十分注意しながらやっていかないといけませんね。やはり民主主義ではなく全体主義ということを念頭においた経済活動をすべきだと考えます。