銀行のシステムと言えば、典型的なミッションクリティカルなシステムの一つだ。強固なセキュリティはもちろん、高い可用性が求められるのは言うまでもない。そこで今、マルチクラウドで稼働する次世代勘定系システム(次期コアバンキングシステム)の開発を進めているのが北國フィナンシャルホールディングスだ。
同システムは、Microsoft AzureとGoogle Cloudをリアルタイムで同期させることで、“真のBCP(Business Continuity Planning)”を実現するというもの。2026年度の稼働を目指し、今まさにプロジェクトが進められている。
北國銀行のクラウド活用は、2017年に個人向けインターネットバンキングをクラウド化したことに端を発する。その後、IT基盤システムの全面更改によってクラウドサービスの本格活用をスタートしたのは、2020年10月のことだ。翌2021年にホールディングス化した同行は、それまでの経験を活かし、同年、勘定系システムのクラウド化にも着手した。一貫してこだわるのは内製だという。
「経営戦略を実現するためにどうすればよいかを考えるのがシステム戦略だと思います。そして当社の経営戦略は、時代とともに変わるお客さまのニーズを迅速に捉え、より良いサービスを次々に出していくことです。その実現に必要なキーワードとしては、アジャイルやクラウド、AIなどいろいろありますが、そのうちの一つが内製化になります」
そう語るのは、北國銀行 システム部 執行役員システム部長 新谷敦志氏だ。6月4日に開催された「金融サミット‘24」に登壇した同氏は、北國FHDのシステム戦略と次期コアバンキングシステムについて語った。
システム戦略の正解は一つではない
「当社が内製化にこだわっているからそういう戦略をとっているだけで、内製化しないというのも正解の一つ」だと新谷氏は語る。確かに、システムを共同化してコストを抑える、といった考え方も戦略の一つだろう。経営戦略が異なれば、それに伴ってシステム戦略も変わる。そうした“たくさんの戦略の中の正解の一つ”として、北國銀行では「人々の生活をより良くする」ことを掲げ、顧客起点のアジャイル開発を実践してきた。
「内製化によって差別化をどんどん進めていきたいと考えています。今はほとんどのシステムをクラウドで構築していますが、一番重要な勘定系をマルチクラウドで作り上げた後は、その進化系としてハイブリッドクラウドという選択肢もありかもしれない、と考えています」(新谷氏)
勘定系システムのフルクラウド化は果たしたものの、その中身はCOBOLで稼働しているため、モダナイズされているとはまだ言い難いのが現状だ。新谷氏は「あと数年は多分(このままでも)行けるんだろうとは思いますが」と前置きした上で、「やはり最後はSoR(System of Record)の生産性を高めないと、迅速にサービスを提供することはできない」と見解を語る。
もう一つの課題としては、現行の勘定系システムはMicrosoft Azureで稼働しているものの、それを取り巻くサブシステムにはオンプレミスのものもたくさん残っていることだ。さらに各システムの開発言語はCOBOLだけでなく、C言語だったり、Javaだったりと異なっており、運用・保守にはそれぞれのスキルセットが必要になる。
「特にCOBOLのようなレガシー言語は要員確保するのが非常に難しく、そこに約5割のコストを費やしています。こうしたところも課題だと思っているので、言語もデータ基盤も統一して、1つのスキルで全ての内製化システムを見られるようにしたいと考えています」(新谷氏)
そこで動き出したのが、次期コアバンキングシステムのプロジェクトというわけだ。
現在の進捗状況は?
前述の通り、現在の勘定系システムはMicrosoft Azureで稼働しているが、次期コアバンキングシステムではAzureとGoogle Cloudを併用し、完全に同期をとることで可用性向上を図る。
「クラウドで障害が起きたとき、回復を待つのではなく、我々が判断してクラウドを切り替えられるシステムにしたいと思っています。また、コンテナを採用することで、現時点ではAzureとGoogleCloudですが、例えばAWSでも動かせるような設計思想で考えています」(新谷氏)
開発言語にはJavaを選択し、マイクロサービスを採用。GitHub Copilotなどの自動コーディングツールを取り入れてコストの最小化を目指すほか、リモート障害対応による保守性の向上も図る。もちろん、開発から運用まで内製化し、一元管理できるようにしていくことは言うまでもない。新谷氏は「生産性も劇的に上がると考えている」と期待を見せた。