斎藤岳・アビームコンサルティング執行役員 企業価値向上戦略ユニット長が語る「日本企業に今求められる「進化するROIC経営」」

当社は2023年10月に、年間売上高300億円以上の企業の経営企画、経理・財務、IR(投資家向け広報)経験のある部長職以上、役員を対象に「進化するROIC(投下資本利益率)経営の実態調査」を実施しました。

 調査結果では、ROIC改善に向けて、優良企業(PBR=株価純資産倍率1.3倍以上で事業撤退経験のある企業)では64.6%が事業別に個別KPI(重要業績評価指標)を設定し、業績連動で評価を行っていますが、改善余地企業(PBR1.3倍未満で事業撤退経験のない企業)では6.4%と、10倍近くの割合差が見られました。

 ROICの普及には長い時間がかかっています。かつて、私がこの業界に入った2001年頃から、「連結経営」という概念が出てきました。当時私は、会社の事業部と子会社を連結し、その指標としてのROICの導入を促す活動をしていましたが、その当時は実務的に難しいということで一旦下火になってしまったのです。

 それがこの4、5年、改めてROICが注目されるようになりました。これには経済産業省が資本効率の向上に向けて、ROICの使用を促していることも背景にあります。

 例えば、以前はEVA(経済的付加価値)を経営指標にしていた花王もROICを併用しています。

 それはROICが資本コストや競合他社、自社グループ内の事業会社間の比較がしやすい指標であることが理由です。

 何よりも大きいのは投資家からの要望です。資本コストに対して、どれだけの収益を上げているのか、事業ポートフォリオを選別して欲しいといった要望に応える指標として、ROICは有用だということです。

 印象としては、経営リテラシーが高く、投資家などステークホルダーへの説明責任を果たそうという意識の強い企業ほどROICを積極的に活用しているのではないかと思います。

 今回の調査結果を受けて、多くの企業経営者の方々と対話をしてきましたが、これまでROICを導入してこなかった企業でも「必要性を再認識した」という声や、「こんなに差が出るのか」といった声を多くいただいています。

 ROICを経営指標にしている企業は、常に自らの事業を「誰がベストオーナーなのか」という視点で見ています。自分達が持ち続けた方がいいのか、シナジーのある別の企業と一緒になった方がいいのかという判断をしているのです。そうした企業は事業の撤退・売却をネガティブに捉えていません。

 大事なのは、ROICを活用することが目的ではなく、事業ポートフォリオを最適にしていく、伸びる事業に優先的に投資していくという考えを、経営陣がチームとして、時間を使って考えられているかです。

 先日、コーポレートガバナンスに詳しい大学の先生より、取締役会のアジェンダ(議題)として、全社戦略や事業ポートフォリオといった経営の根幹に関する議論は全体の2割ほどしかなく、個別のオペレーションに関する議論が大半を占めている企業が多いという話をお聞きしました。

 経営の根幹に関する議論をしていると、ROICのような指標がないと判断が難しくなると思います。単に「利益が出ている」ではなく「資本コストに対して利益が出ているか」という視点で見なければいけませんし、その上で将来の成長を打ち出していくことが求められています。