歯周病と虫歯の原因菌を迅速に検出する技術を広島国際大学などのグループが確立した。これまで4、5日ほどかかっていたが、90分で結果が分かるようにした。歯周病や虫歯の菌の中には全身の疾患に関与しているものが見つかっている。新技術を使えば健康診断や口腔検診の待ち時間の間に結果を伝えることができ、患者が口腔内環境のみならず、全身の状態にも気をつけるような行動変容が起きることを期待しているという。

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    虫歯や歯周病の原因菌のうち、歯科治療だけでは対処できない全身疾患の原因となる菌が見つかっている。早めの対処が必要だ

歯周病の原因菌にはいくつかの種類があるが、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌(Pg菌)という菌は悪性度が高い。虫歯の原因は主にミュータンス菌とされている。広島国際大学健康科学部医療栄養学科の長嶺憲太郎教授(分子生物学)のグループは、毎年の歯科検診を義務づける「国民皆歯科健診制度」の実施(2025年予定)を前に、この2つの菌を素早い時間で検出できる技術の開発に取り組んだ。

従来は唾液の菌を培養させてPCR検査を行っているが、非常に時間がかかるという問題があった。長嶺教授らは歯や骨を構成するハイドロキシアパタイトにストロンチウムが化合した物質「ストロンチウムアパタイト」(SrHAP)がDNAを効率よく吸着する性質に着目。菌に関連する遺伝子を増幅する「LAMP法」を検出に利用した。

同法はまず、採取した唾液を98度で5分間加熱し、菌を壊す。次にSrHAPを加えて、菌のDNAを吸着させる。その後、LAMP反応液を加えて、60~65度に加熱する。加熱している45~90分の間にSrHAPと菌のDNAが分離して増殖し、結果が分かる。この反応液の工程で歯周病菌または虫歯菌専用の核酸断片「プライマー」を加えると、Pg菌がある場合は濁りが生じ、ミュータンス菌があると色味が黄色に変わるため、見分けが付く。

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    SrHAPを用いた迅速診断の操作法。ミュータンス菌を検出した様子(左下)と、Pg菌を検出した様子(右下)(長嶺憲太郎教授提供の図を基に編集部改編)

ミュータンス菌の中には、脳血管障害や非アルコール性肝炎の原因となる菌がある。また、Pg菌は動脈硬化や早産、糖尿病を引き起こすとされている。長嶺教授は「虫歯や歯周病を歯科で治療すれば終わり、ではなく、自分の口の細菌の様子を知り、全身疾患の予防や、罹患したときに他の診療科を受診するための動機づくりになればと思い、取り組んだ」としている。将来的に、集団歯科検診などなるべく早く結果が分かった方が良い場所での実用化を目指すという。

ただし、今回開発した方法では一定の菌の数がないと反応が見られないため、早期の歯周病や歯肉炎、小さな虫歯など、菌の数が少ない場合は検査結果に反映されないという欠点がある。そのため、長嶺教授らは菌数が少なくても短時間で検出できる方法を探り、培地の開発に取り組んでいる最中だという。

研究は日本学術振興会の科学研究費補助金の助成を受けて行った。新しい検出法については3月1日に特許を取得し、広島国際大学が5月14日に発表した。

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