日本電信電話(以下、NTT)と早稲田大学は6月5日、「地球愛」の醸成とサステナブルな社会を実現するため、地球環境、エネルギー、食、スポーツ/健康の分野において新たな価値の創出を目指すビジョン共有型共同研究を開始することを発表し、早稲田大学コマツ100周年記念ホールで記者説明会を開いた。
両者の研究は、「守りのサステナビリティ」と「攻めのサステナビリティ」の二軸を起点として、上記の4つの研究テーマに取り組む。それぞれの専門分野の垣根を越えた横断的な文理融合の体制で推進するとのことだ。
早稲田大学は建学の精神に立ち返り人類への貢献を推進
早稲田大学は2032年の創立150周年を数年後に控える中で、アカデミアとしての「総合知による人類への貢献」を目標として、大隈重信氏の建学の精神に立ち返り「研究の早稲田」「教育の早稲田」「貢献の早稲田」に対応するそれぞれの3つのグローバルセンターによる、三位一体の新たな推進体制を構築している。
特に、研究分野を主導するグローバルリサーチセンター(以下、GRC)は、同大学が持つ研究シーズを発展・飛躍・融合させ、社会変革をもたらす価値創造を目指すという。大学総長およびプロボスト(Provost)によるトップダウン型の研究強化と、リサーチイノベーションセンターによるボトムアップ型での研究シーズの育成などを担う。
早稲田大学理事長の田中愛治氏は「気候変動やエネルギー、紛争回避、食料問題の解決法を研究するために、情報をいかにスムーズに伝達できるのかは重要。NTTとさまざまな分野で地球全体を考えながら一緒に研究を進めることで、人類と社会に貢献できるだろう」と研究の意義を語っていた。
NTTは文理融合の研究成果によって限界打破へ
近年は、データ量や通信トラフィック量が増加の一途をたどる。また、AIの高度化などを背景に電力消費量も増加しており、国内のIT機器が消費する電力量は、2006年と比較すると2025年で約5倍、2050年には約12倍まで増えるとの試算もある(経済産業省「グリーンITイニシアティブ」)。
また、世界に注目して2018年と2030年の状況を比較すると、データ量は約16倍、消費電力は約13倍に増加するという試算もある。昨今の生成AIの台頭により、この予測を上回るほどのデータ量と消費電力が必要になる可能性もある。
こうした状況の中でNTTグループが「限界打破のイノベーション」として開発に注力しているのが、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想だ。2030年までに、電力効率100倍の低消費電力、伝送容量125倍、200分の1のエンドエンド遅延を実現するとしている。
NTTをはじめインテルとソニーの3社を発起人として、2020年1月に国際的な非営利団体である「IOWN Global Forum」が立ち上がった。同団体の加盟企業は120社を超え、各社がそれぞれの強みや知見を共有しながら技術開発を進めている。
企業に加えて、20の学術組織もフォーラムに参加している。理系分野の基礎研究だけでなく、新たな制度や思想を研究する文系分野の研究成果もフォーラムに反映される。
そこで今回、GRCが主導して分離融合研究を進める早稲田大学と連携を強化することで、NTTは新たな価値の創造とグローバル規模でのサステナブル社会の実現を目指すという。
NTT副社長の川添雄彦氏は、早稲田大学創設者である大隈重信氏の「道が窮(きわ)まったかのようで、他に道があるのは世の常である。時のある限り、人のある限り、道が窮まることはない」との言葉を引用しつつ、両者の連携の意義について以下のように説明した。
「IOWN構想を発表した際に、私たちは"限界打破"のイノベーションを意識していた。以前は『インターネットでなければいけない』『アセットの範囲の中でなくてはいけない』という限界を自分自身で勝手に決め、技術開発を進めていたような気がする。限界の他に答えにつながる道があるのであれば、その限界を超えて開発を続けるべきだと思い、大隈氏の意思を引き継ぐ早稲田大学との共同研究を進める」