パナソニック アドバンストテクノロジーは6月4日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して「CG画像と少量データを用いた月面探査ローバ向け運転支援AIの試作」に関する研究を開始することを発表した。

今回の取り組みは、JAXAが推進する宇宙探査イノベーションハブ「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」にて実施された研究成果をもとに、ステレオカメラにより月面探査ローバの安全な移動の妨げとなる岩石とクレータを障害物として検知する機能を向上させ、月面を環境認識する運転支援システムを試作開発するというものとなる。

深層学習による物体検出モデルの開発には通常、大量の教師データが必要であり、そのためのコストと手間、時間などを必要とすることが課題となっている。加えて、宇宙のような場所は、簡単に行って教師データを用意するといったことが難しいことも課題となっており、そうした教師データの収集が難しい場所へ実際に行くことの代替策として考え出されたのが、高品質なレンダリングによるCG画像を教師データとして利用する方法だという。しかしGPU性能が向上し、近年のCG画像がリアルになってきたとはいえ、それでも現実に比べると少なからずギャップが存在してしまうことに加え、CG画像に対する精度の高い深層学習モデルを作成できたとしても、実際の運用環境となると精度が低下してしまう「ドメインシフト問題」もあったという。

そこで今回の研究では、シミュレータにより大量の月面環境を模したCG画像を生成してソースドメインとして構築。それに対し、少量の月面の実撮影データをターゲットドメインとして、「敵対的学習」および「半教師あり学習」を実施し、ドメイン適応を行うことで、少量の教師データでも精度を低下させない物体検出深層学習手法を試行することにしたという。

月面も当然ながら容易には行けない環境であり、それを想定した環境認識技術の研究開発においては、どれだけ月面をリアルに再現した仮想環境を構築できるかが重要な要素となる。それを踏まえ今回は、NASAより公開されている月面南極域の3Dデータをゲーム開発エンジンUnityに取り込み、そこからアルテミス計画の探査ローバの走行タスク想定地点を切り出し、横から差し込む太陽光を模擬した3Dシミュレーション環境として構築することにしたとする。

  • 3Dシミュレーション環境

    NASAが公開している月の南極域の3DデータをUnityに取り込み、それをベースにアルテミス計画における探査ローバの走行タスク想定地点を切り出す形で3Dシミュレーション環境が構築された

ただし、公開地形データは5m/pixelと分解能が低く、月面探査ローバの移動の妨げとなる10m以下の小さなクレータや岩石の情報が欠落してしまっているため、文献を参考に仮想のクレータや岩石を障害物として配置しているという。

  • 開発中の操作画面イメージ

    開発中の操作画面イメージ

  • メインはCG画像が利用されるが、公開されている月面画像データを活用して適応させている

    教師データとして利用できる月面の画像データは少ないため、メインはCG画像が利用されるが、公開されている月面画像データを活用して適応させ、ドメインシフト問題の解決が図られている

また今回の研究では、JAXA宇宙探査実験棟の宇宙探査フィールドの模擬月面環境で、小型ローバを使用した走行試験による実証実験も実施。南極域を想定し、横から差し込む太陽光を模擬した照明環境でロバスト性を評価し、性能改善を進めているとしている。

  • JAXA宇宙探査実験棟での実証実験の様子
  • JAXA宇宙探査実験棟での実証実験の様子
  • JAXA宇宙探査実験棟での実証実験の様子

なお、今回の研究開発により、低コストで精度の高いAIの開発が可能となり、地上でも教師データが入手困難であるという理由で今まで普及が進んでいなかった領域にも、AIシステムを適応できるようになることが期待できるとパナソニック アドバンストテクノロジーとJAXAでは説明しているほか、パナソニック アドバンストテクノロジーでは、今後のさまざまな自律移動モビリティを実現するための技術の確立に向け、今後もさらなる性能改善、ユースケースへの適応を続け、研究開発を推進していくとしている。

  • システムの構成図

    システムの構成図

  • ミッションロゴ(Panasonic Advanced technology Development challenges the moon)

    ミッションロゴ(Panasonic Advanced technology Development challenges the moon)