日本は他の先進国と比べて、デジタル化で遅れているうえ、生産性も低いといわれている。そのため、企業はデジタル変革に注力しており、国を挙げて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組んでいる。
総務省が実施した2021年の調査において、世の中のデジタル化が進んでいない理由を尋ねたところ、「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安」が52.2%と最も多かった。これに、「利用する人のリテラシーが不足しているから」(44.2%)、「デジタルでの業務利活用が不十分」(36.7%)、「通信インフラが不十分」(35.5%)、「情報端末が十分に行きわたっていない」(34.0%)、「利用者がデジタルに対する抵抗感をもっている」(33.7%)が順に続いている。
これまで、日本のシステム開発は外注し、そのベンダーが業務の現場担当にヒアリングを行って仕様を決めた上で進めていくことが主流だった。システムが完成したら、現場のユーザーに操作法を学習してもらい、試用期間を経て、本番稼働に移行する。
システム開発は専門的なスキルが必要なため、専門家に外注することは必然に思える。ただ、業務担当にヒアリングを実施した上でシステムを開発しても、現場のユーザーが出来上がったシステムに不満を抱くことは多いようだ。
サイボウズの独自調査によれば、ITツールの導入後に課題を感じている人の割合は、約7割にも上るという。
導入後の不満としては、「現場には解決したい課題がたくさんあるのに、導入したツールでは一部の課題しか解決できない」「現場にツールが乱立しており、データ連携など新たな課題がでてきた」といった点が挙がっている。ビジネスは常に変化するため、システムを導入したタイミングにはなかった課題が新たに発生することや、使っていくうちに追加したい機能が出てくることはよくある。
現場が自ら開発することが理想
現場の人が、一番業務を深く理解しており、どんな機能が必要で、どのような利用方法が最適なのかを知っている。そのため、システム開発を現場のユーザーが行えれば、システムに対する満足度も上がり、導入後の浸透・継続にも効果があるはずだ。
数年前、RPA(Robotic Process Automation:ビジネスプロセスや作業を自動化する技術)がかなり注目された。数時間かかっていた作業が、わずか数分で完了といった目に見える成果が得られたため、RPAは多くの企業で導入が進んだ。
しかし、業務は常に変化するため、RPAの処理が少しずつ業務に合わなくなっていくことはよくある。最初は一部を手作業で行うが、それが徐々に拡大。最終的には、まったくRPAを使わなくなり、Excelによる集計に逆戻りしたという話がよく聞かれた。上司が変わったため、月次で集計して報告すべき数字の内容が変わったということもある。
業務が変化するたびにシステム改修を実施すればよいが、予算をかけて外注するとなると頻繁には行えず、修正までの期間が長くなる。
この課題の最も良い解決策は、業務を担当するユーザー自身がシステムを開発し、業務の変更に合わせてアップデートしていくことだ。しかし高いスキルが求められるシステム開発を現場の人が行うことは、これまで難しいと考えられていた。
しかし、kintoneなどの「ノーコードツール」や「ローコードツール」の登場により、それが可能になってきている。
「ノーコードツール」「ローコードツール」とは
「ノーコードツール」は、プログラミングの知識やスキルがなくても、直感的な操作でWebアプリケーションなどのソフトウェア(業務アプリや業務システム)を開発できるツール。従来のコーディングやプログラミングを必要とせず、ドラッグ&ドロップやマウス操作でアプリケーション開発が可能だ。
「ノーコードツール」を使用することで、ITの専門知識がない業務部門であっても、思いついたアイデアを形にできるため、デジタル化やDXを促進することができる。そのため、最近、注目を集めている。
一方、「ローコードツール」は、少ないコードとビジュアル的な操作で開発できるツールを指す。最小限のコードで開発できるので、素早く業務アプリや業務システムを開発することができる。拡張性はあるが、プログラミングの知識が必要となる。
「ノーコード」「ローコード」ツールを使用すると、ITの専門知識がない非IT人材でも業務アプリや業務システムの開発が可能になる。ドラッグ&ドロップで直感的にアプリを開発できるツールもあり、業務担当者が思い描くイメージをそのまま形にできるので、開発コストを削減できる可能性が高い。
パッケージ製品やスクラッチ開発など従来の開発手法では検討開始から完成までに時間がかかり、ビジネスの変化に対応できない。これに対し、変化の激しいビジネス環境に合わせて、使いながら改善していけることが、「ノーコードツール」「ローコードツール」のメリットだ。
「ノーコード開発」により、一定レベルの業務アプリや業務システムをつくることは可能だが、「ローコード開発」の要素を加えることで、拡張性や柔軟性が向上する。「kintone」のような「ノーコード」と「ローコード」の両要素を備えているツールであれば、多様な業務領域をカバーするシステムをつくことができる。「kintone」を導入する担当者の93%は非IT部門ということだ。
DXを進める際のポイント
DXに取り組む際のポイントの一つは業務整理だ。これまで行っていた業務の流れを見直し、システム化すべき業務を見極めることが重要となる。どの部分をシステム化すべきか、どの部分をシステム化すれば効果を得られやすいのか、どの部分が簡単にシステム化できるのか、どの部分は手作業で対応したほうが効率的なのか、といった観点から業務を見直す必要がある。
また、最初から完璧を求めないことも大切だ。完璧を求めるとシステムが複雑になり、開発期間も長くなる傾向にある。まずは、効果の大きな部分からシステム化し、徐々に改善を加えながら、システムを拡張していくことで、柔軟性や導入効果の高いシステムができる。
これらを実現するためには、業務知識が最も豊富である業務部門自らシステムを開発していくことが必要だ。それには、開発スキルのいらない「ノーコード開発ツール」を活用することがポイントになるだろう。