東京大学(東大)、味の素ファインテクノ、三菱電機、スペクトロニクスの4者は5月31日、次世代の半導体製造「後工程」に必要な、パッケージ基板への3μmの極微細レーザー穴開け加工技術を開発したことを発表した。
同成果は、東大 物性研究所の小林洋平教授(東大 光量子科学連携研究機構兼任)、同・谷峻太郎助教(研究当時)、同・乙津聡夫特任研究員、東大大学院 理学系研究科の田丸博晴特任教授(光量子科学連携研究機構)、味の素ファインテクノ 電子材料事業部の真子玄迅事業部長(現・同社 代表取締役社長)、三菱電機 先端技術総合研究所 産業オートメーションシステム技術部の湯澤隆部長、同・中村直幸主席研究員、スペクトロニクスの岡田穣治取締役らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国・デンバーで5月28日より開催中のIEEEが主催する電子部品と技術に関する国際会議「ECTC 2024」にて発表された。
近年、EUV(波長13.5nmの極端紫外線)露光技術の発展により半導体チップの微細化が進み(7nm以下のプロセスルールが実現されている)、チップの電極間隔もさらに小さくなってきている。それに伴い、チップを受ける側のパッケージ基板の配線も微細化が進んでいる。基板は多層構造となっており、層間の電気信号は絶縁層にあけられた微小な穴を通して結合される。現在は40μm程度の穴をレーザーで開けて金属メッキを施すことで層間配線が行われているが、チップの微細化に伴い将来パッケージ基板の穴径において5μm以下の微細化が必要とされている。
しかし、現在用いられているレーザー加工技術では、レーザーや光学系の特性で小さい径に集光することが困難であり、また高いアスペクト比の穴開け加工はできないという課題を抱えていた。また、それに対応する微細穴開け加工に適した薄い絶縁層も求められていた。そこで今回の研究では、「TACMIコンソーシアム」(東大が、産学官連携による光ものづくり協創の推進のために2017年に設立した企業間マッチングのプラットフォーム)に属する、レーザー開発、加工機開発、材料開発およびパラメータ探索を得意とする4法人が技術を持ち寄ることで、それらの課題解決に挑むことにしたという。
今回の研究で東大は、ガラス基板上に銅を蒸着した後に、レーザー加工により銅をパターン状に削り取り、微細な銅の配線の作成を担当。味の素ファインテクノは、その銅配線層上に、半導体向けの層間絶縁体として極めて高いシェアを占める「味の素ビルドアップフィルム」(ABF)薄膜を積層することで、銅上に3μmの絶縁層を形成。そしてスペクトロニクスは、波長266nmのDUV高出力レーザーを担当。三菱電機は、深紫外線用に特別に開発したレーザー加工機の光学系の工夫を行い、集光サイズを従来よりも小さくする改良を行った。最終的に、東大でAIを活用した条件探索が行われ、その結果、エッチング技術を用いることなくレーザー加工のみで3μmという超微細穴開け加工が実現された。
ABFの顕微鏡観察が行われた結果、ABFにのみ穴が開き、下の銅配線やガラスは削れていないことが確認された。また今回の技術を用いると、自由な穴開けパターンを基板上に高速に作成することもできるとした。
今回の成果は、半導体業界における後工程ロードマップにおいて重要なマイルストーンとなるものだという。レーザー加工機で次世代の微細穴開け加工が可能であることが示されたことで、半導体のさらなる微細化において、低コストで自由度の高い基板加工が可能であることが確かめられた。研究チームは今後、さらなる微細化に取り組むと共に、複雑化する「チップレット」(構成要素ごとに別チップとして製造した上で、パッケージ基板上に組み合わせて実装し一体のパッケージとして動作するよう製造する技術およびその手法)の製造工程における技術課題について、レーザー加工で対応可能な範囲を拡大するための研究・技術開発を進めていくとした。また、産業応用についても、大手半導体メーカーなどに今回の技術の周知を進める方針としている。