大阪大学(阪大)は5月30日、2007~2015年度に同大に入学した学生2万6373人を最大6年間追跡した結果、睡眠時間が5時間未満の大学生は喫煙開始のリスクが高く、特に女性でその傾向が顕著であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大大学院 医学系研究科の李琴燕大学院生、阪大 キャンパスライフ健康支援・相談センターの山本陵平教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、睡眠医学に関する全般を扱う学術誌「Sleep and Breathing」に掲載された。
喫煙をしてしまう理由の1つに、「リラックスできるから」があり、ストレスフルな環境にあるような場合、リラックス効果を求めて喫煙を始めてしまう人も少なくないという。しかし、喫煙によってリラックスできていると感じるだけであって、実際に身体がリラックスできているわけではないという。ニコチンは神経の報酬系に作用して心地良さをもたらすため、リラックスした気分になりやすいと考えられているが(このことは精神的にも肉体的にも強い依存につながる危険性がある)、実際には交感神経を刺激してしまい、身体としては興奮してしまうことがある。
そのため、夜の喫煙は、睡眠に悪影響を与えるとされる。寝付くまでの時間(入眠潜時)が長くなったり、深い睡眠が減ったり、総睡眠時間が短くなったりすることが実際に報告されており、喫煙は睡眠の質を悪化させる一因と考えられている。
このように、喫煙が睡眠に悪影響を与えることがわかってきおり、若年者における睡眠時間と喫煙の関連に関する研究も行われるようになってきたが、そのような疫学研究は、喫煙者と非喫煙者の睡眠時間を単純に比較したものが多く、短(長)時間睡眠が喫煙開始のリスクとなるのか、それとも喫煙が短(長)時間睡眠のリスクとなるのかについては良く分かっていなかったという。
また、若年者の非喫煙者を追跡して、睡眠時間が喫煙に及ぼす影響を評価した研究もいくつかあるが、規模が小さかったり追跡期間が短かったりと、十分な検討がなされていないことが課題であったとのことで、今回、研究チームは2007~2015年度に阪大に入学した学生2万6373人(男性1万7493人、女性8880人)を最大6年間追跡する形で調査を行うことにしたという。
その結果、入学時の健康診断において睡眠時間が5時間未満であると回答した学生は、在学期間中に喫煙を開始するリスクが高いことが判明したという。特に、女性でその傾向が顕著であり、睡眠時間6~7時間の比較基準に対し、5時間未満は2.50倍ほどとなったという。男女の睡眠時間別の喫煙リスクは以下の通り(男性は睡眠時間を5つ区分、女性は4つに区分)。
男性の睡眠時間と喫煙リスク
- 5時間未満:1.49倍
- 5~6時間:1.11倍
- 6~7時間:1.00倍(比較基準)
- 7~8時間:0.92倍
- 8時間以上:1.00倍
女性の睡眠時間と喫煙リスク
- 5時間未満:2.50倍
- 5~6時間:1.18倍
- 6~7時間:1.00倍(比較基準)
- 7時間以上:1.22倍
なお、研究チームでは今回の成果について、睡眠時間が短い大学生は将来的な喫煙開始のリスクが高く、喫煙予防教育の重点対象候補である可能性を示唆するものであり、適切な睡眠時間の確保は、生活習慣病の予防においても重要なことから、今後の主要な生活習慣リスクである喫煙の予防にもつながることが期待されるものだと説明している。