TSMCの中国南京工場(SMC Fab16)が、米国商務省産業安全保障局(BIS)より米国製半導体製造装置の輸出規制に関する「Validated End User(認証済みエンドユーザー(VEU))」認可を最近取得した模様であると台湾メディアが報じている。この認可は、2022年10月以降に商務省が発行していた暫定的な書面による認可に代わる正式なものになるという。
VEUは、米国の輸出業者(この場合は半導体製造装置メーカー)が、中国のVEUに対して輸出する際に、個別輸出許可の代わりに一度の包括的な許可で指定された輸出規制品目を継続して出荷できる制度で、産業界の負担になっている輸出許可手続きを軽減できるメリットがある。
2018年以降深まる米中対立において、米国が2022年10月に中国など特定国に対する半導体関連の輸出規制の厳格化を実施。Samsungなどの韓国勢は中国への輸入規制の無期限免除をすでに取り付けているが、これまでのTSMC南京工場の免除は2024年5月31日で期限切れとなるものであり、その動向が注目を集めていた。
TrendForceの調べでは、TSMCは中国に南京工場(12/16nmおよび22/28nm)および上海工場(Fab 10、110~350nm)の2つのファブを有しており、今回の南京工場のVEU認可取得は、16nmや28nmなどの成熟かつ特殊技術(Specialty Technology)プロセスを求める顧客の需要を満たすために生産能力の拡大が続くことが期待できるという。
例えばパネルドライバIC向けにTSMCは今年から28nm高電圧製品の量産を開始したほか、有機ELパネルドライバIC向けとなる16nm高電圧FinFETプロセスの開発も進めているという。また、16nmプロセスとして、自動車向けMRAM技術を顧客と共同で開発していると報じられているほか、次世代の16nm MRAMプロセスに備えて、より高いストレージ密度と低コストのソリューションに向けた取り組みも進めているという。
AMATがSMICへの製造装置輸出で商務省から再び召喚状
こうした動きの一方、BISの貿易上の取引制限企業リスト(エンティティリスト)に掲載されている中国企業に対する製造装置の輸出は引き続き厳しく制限されている。
ロイター通信によると、事情に詳しい情報筋の話として、Applied Materials(AMAT)が輸出許可なしに韓国を経由する形でSMICに製造装置を輸出した疑いで捜査を受けているという。すでにAMATは2023年11月に米商務省から召喚状を受け、中国顧客への特定の出荷に関する情報の提供を求められていたが、2024年2月には米国証券取引委員会とマサチューセッツ州連邦地方検事局からも召喚状を受けた模様で、それを受ける形で5月には米商務省から新たな召喚状を受け取ったことを同社は認めているという。
なお、同社が5月中旬に発表した財務報告によると、2024年度第2四半期(2024年2-4月)の総売上高のうち、中国市場での売上高は43%を占め、前年同四半期の21%から大きく増加している(台湾と韓国はそれぞれ15%、米国は13%、日本は7%)。第1四半期も中国市場の売り上げ比率は45%となっており、このところ中国向けの売り上げが目立って増加している。