以前も書いたが、最近では深夜に謎の呪文のような声が隣人から漏れ出し、昼間には自身の業務とは直接に関係のない内容の声、やたらと多発するリフォームのドリル音。それぞれが己の目的に向かって、邁進していることは確かなのだろうが、セグメントを越えた音環境が増加している。これを何気ない日常であると設定するといつしか事故につながる。縦横に自転車が滑走しはじめた混雑化した通勤時の交差点は、いつしか日常となりはじめたが、設置してあるガードレールをふと見ると強く破損していた。
オープン/集中のエリア区分の問題はエンゲージメントや生産性など業務とのかかわりの研究も進められており(オフィスにおける働く場所の選択肢とワークエンゲージメントの関係:心理的安全性の知覚による媒介効果の検討)、クリエイティビティと職場環境の分析(活動に合わせた職場環境の選択が個人と組織にもたらす影響)など、よりセグメントを深く掘る研究も行われている。職制に応じて環境効果が異なるため、よりつぶさに環境効果を計測するものだ。ニーズが増加するとともに研究も広がる。
そんななか、AIによる課題解決も現実味を帯びる。ノイズキャンセリングイヤホンやヘッドフォンは現状のものでも、かなり有効な手段だ。いくつか試しているが、その効果は明らかなもので筆者は常時着用している。ここにAIを投入する機材も増加しているが、米国ワシントン大学ではあらたなAIヘッドフォンを開発している。ヘッドフォンを装着するユーザーが、話者の方向を数秒見てボタンを押すだけで1人の話者以外の声をノイズキャンセルするというもので、話者からの音波パターンをオンボードの組み込みコンピュータが学習・認識。双方が動き回っても認識した声だけをとられらえる。騒音が日常の職場においても、他のノイズをキャンセルして登録した声だけをスルーにできれば、会議や電話などの音声が必要になる場合に有効である。
概念実証に用いられた機械学習のソースコードやトレーニングデータはGitHubに公開されており、開発チームのMALEK ITANIさんが実践する動画もYouTubeに上がっているが、噴水の音が大きい場所やオープンスペースで実践する様子も覗える。将来的にはイヤホンに実装できるよう小型化し、聞きたい人の声を増幅することで聴覚障害のある人に役立てるようにしたいと述べている。生成AIのように文字の世界での威力を見える形で発揮するAIだが、音をはじめ様々な世界の無数にある課題解決に今後も活躍してくれそうだとあらためて感じた。