【財務省】円安が長期化、物価高で家計の先行きに不透明感

日銀のマイナス金利解除後に円相場が急落したのを受けて、政府・日銀は行き過ぎた円安是正に向けて「覆面介入」を実施したとみられ、1ドル=160円の「デッドライン」(財務省幹部)を超えるのは抑えた形だ。

 5月16日に内閣府が発表した1─3月の実質国内総生産(GDP)は個人消費が前期比で0.7%落ち込み、リーマン・ショックが直撃した2009年1─3月期までの4四半期以来となる4期連続の減少となった。自動車の認証不正問題が響いたためだが、円安基調が長期化して物価高が続けば、家計の先行きも不透明感が強まり、経済好循環が遠のきかねない。

 鈴木俊一財務相は14日の閣議後会見で政府・日銀の連携を巡り、政策に摩擦が生じないよう「意思疎通を密にする」と強調。日銀による国債買い入れ減額に伴う金利動向や影響を注視する考えも示し、日銀の〝脱線〟を牽制する姿勢をにじませた。

 というのも、4月26日の記者会見で、日銀の植田和男総裁は「今のところ基調的な物価に円安が大きな影響を与えているわけではない」と明言。これが円安を容認したと受け止められ、市場との対話に〝失敗〟。その点、為替介入の観測が浮上するたびに報道陣の取材に応じている鈴木氏と神田真人財務官のほうが一枚上手ということか。

 岸田文雄政権の支持率が上向かない中、鈴木氏の手腕が問われるのはこれからだ。6月下旬にかけて通常国会会期末を控え、与野党の攻防が激化するのは必至。政権は6月から実施する1人当たり所得税と住民税計4万円の定額減税の効果で物価高を上回る賃上げを実現して逆風を和らげたい考えだが、為替の動向次第では黄信号が灯る。

 円安是正に不可欠といわれる日米の金利差縮小は「米国頼み」(財務省幹部)の側面があるものの、経済財政運営のトップである鈴木氏はどんな手を打っていくのか。

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