【ずいひつ】産経新聞元編集委員・巽尚之が語る「外資系ホテル 京都・奈良に進出ラッシュ」

2025年「大阪・関西万博」の開催まであと1年。今年正月に起きた能登半島地震を受け、「万博延期論」(高市早苗経済安全保障相)も浮上したが、政府は予定通りに開催を進める方針だ。万博の機運は全国的な盛り上がりを欠くが、関西には訪日外国人客(インバウンド)が急増。京都や奈良など古都の風情を楽しみたいとする観光客も多く、それに合わせた外資系ホテルの進出ラッシュが目立つ。

 タイの名門ホテル、デュシット・インターナショナル(本社・バンコク)は昨年9月、京都に旗艦ホテルとなる「デュシタニ京都」(京都市下京区)を開業した。式典には駐日タイ大使らが駆け付けてテープカット。新型コロナウイルス禍がおさまり、「インバウンド需要が急激に戻りつつある」(田岡弘志・ホテル阪急インターナショナル総支配人)中で、古都に目を付けた外資系ホテルの開業が相次ぐ。

 デュシタニ京都はJR京都駅からは徒歩圏という好立地。旧安田財閥の安田不動産が小学校の跡地を開発し誘致した。レストランやバー、フィットネス施設などを備え客室数は147室。「デュシタニ」を冠した高級ホテルの開業は日本初。タイのアユタヤ遺跡と京都に根付く日本の文化を融合させた室内装飾や料理メニューなどが特徴だ。

 デュシット社は昨年6月にも京都市内に若い層を狙ったホテル「ASAI(アサイ)京都四条」を開業。ホテル会員数170万人を擁し、別ブランドの2つのホテルの開業で若年層と富裕層の取り込みを目指す。

 京都ではシンガポールのホテル企業、バンヤンツリー・ホールディングスが「ダーワ・悠洛 京都」と「ギャリア・二条城 京都」の2つのホテルを既に開業しているが、今年夏に京都市内に旗艦ブランドとなるホテルの開業を予定。建築家・隈研吾氏がデザイン監修を務め、京都の歴史や文化を空間デザインの各所で表現したという。

 2020年7月には奈良市内に高級ブランドのJWマリオット・ホテル奈良が開業するなど、関西の古都には外資系ホテルが押し寄せる。

 こうした外資系高級ホテルの日本進出には海外の富裕層らを狙う戦略が伺える。宿泊料金を高く設定すると利益率が高く、海外のホテル会員に向けたセールスで客室稼働率のアップを狙えるからだ。「マリオット」のホテル会員は世界に1億8千万人とされ、古都の魅力に関心の高い富裕層にアピールできる。

 一方、〝御三家〟の一角、帝国ホテルは「法人営業に注力し宴会需要などを取り込んで外資系との差別化を図る」(帝国ホテル大阪)戦略を描く。「従来の日本のホテルはレストランや宴会で7割、宿泊3割で稼ぐ」(高田宏・大阪学院大学教授)といわれ、会員数を武器に日本に進出する外資系との一騎打ちでは苦戦を強いられる。

 実際、大阪の名門「リーガロイヤルホテル」(大阪市)は昨年1月、同ホテルの土地と建物をカナダの不動産会社に譲渡すると発表し関係者を驚かせた。世界最大級のホテル経営、インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)と提携し、IHGのノウハウを生かして海外からの集客アップに舵を切る。

 ロイヤルホテル出身の高田教授は「さまざまな形で日本市場への外資ホテルの進出はまだまだ続く」と話す。地震の影響を受けた北陸地方には〝小京都〟と言われる金沢など古都の風情を醸す観光地も少なくない。能登半島を含む北陸地方にも外資系ホテルが進出し、復興の一助となることを願いたい。

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