「今のところ円安が基調的な物価上昇率に大きな影響を与えているということはない」。4月26日の金融政策決定会合後の記者会見で、日本銀行総裁の植田和男氏はこう発言した。
円安進行に歯止めがかからず、政府・日銀が対応に苦慮している。ゴールデンウイーク入り直後には一時1ドル=160円台と1990年4月以来、約34年ぶりの円安・ドル高水準を付けた。政府は約1年半ぶりの円買い・ドル売り介入に踏み切った模様だが、「効果は一過性で円安の流れを変えるには至っていない」(大手行ディーラー)。
米国ではインフレ圧力が収まらず、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ転換が遠のいており、円安の主因である日米金利差は縮まる気配がない。
だが、追加利上げをすれば、そのインパクトは格段に大きい。短期プライムレートの上昇につながり、変動型住宅ローン金利を利用する家計の支出増に直結する。企業の借入コストも増え、原材料高や人手確保のための賃上げに汲々としている中小・零細企業は金利上昇に追撃されて「三重苦」となりかねない。
利上げによる負担増で消費者や、自民党の支持基盤である中小企業経営者の間に不満が広がれば、衆院解散・総選挙のタイミングを探る岸田文雄官邸からの風当たりも強まるだろう。
さらに厄介なのは、仮に日銀が短期の政策金利を0.1―0.25%程度引き上げたところで、約20年ぶりの高水準(5.25―5.5%)にある米国の政策金利が引き下げられなければ、日米金利差は有意に縮まらず、円安圧力が解消されない恐れがあることだ。
過去にゼロ金利政策の解除に失敗したトラウマも抱える日銀は、これまで春闘の賃上げの結果が毎月勤労統計に反映される夏場以降に追加利上げを行うシナリオを描いてきたとみられるが、円相場の動向次第では悠長なことも言ってられないかもしれない。為替は国力に直結する。政府として企業の国内投資をどう促すかも課題になる。