日本経済に対する信頼度が劣化してきている
─ 前回は、日本再生のキーワードはレジリエンス(耐久力)だと。国民の耐久力を高めるような産業づくりが必要だという話でした。
寺島 最近、よく質問を受けるのが、日本円がなぜ1ドル=150円から戻らないのかということです。
これはメディア等で様々な専門家が解説してきたことが間違いだということが見えてきた。それは何かというと、「日米の金利差が円安をもたらしていて、ドル高だから円安なのだ」という話だったわけです。
ところが、米国では金利引き下げの局面に入り、日本は利上げに入っていくような状態になっても、150円台のままというのはなぜか? これは分かりやすく言うと、日本経済そのものに対する信頼度が、それほどまでに劣化してきているということです。
─ つまり、国力の低下?
寺島 そうです。間違いなく国力の低下を表しています。
今、日本の円はアジア最弱通貨と言われています。米ドルに対してだけ安いわけではありません。第2次安倍晋三政権が発足した2012年と比較して、対シンガポール・ドルで36%、対タイ・バーツで33%も下落していました。だから、今ではアジアから来ている人たちが「日本は安すぎる」と言うような状況になっています。
日本人は今、アベノミクスについて真剣に問い直す必要があります。アベノミクスは金融緩和と財政出動という二本立てで、デフレからの脱却を図ってきました。その先に成長戦略を実行しようと言ってきたわけです。
─ それがアベノミクスの「3本の矢」でしたね。
寺島 アベノミクス前の2011年に、日本円は75円という最高値をつけました。つまり、80円を割り込むほど円高だった時代において、金融を緩和し、円安と株価の引き上げに誘惑を感じたのも分からなくはない。ですが、十何年間もエビ反りしているうちに戻れなくなったというような状態なのが現状です。
今はそれを何とかしてソフトランディングさせなければいけません。方向感として日本が目指すべきことは、財政規律をしっかりと守る方向を目指しながら、段階的に日本の産業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を高めていくことです。
─ 政府はプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を目標に掲げていますが、なかなか達成できませんね。
寺島 問題はそこです。アベノミクスで赤字国債がどんどん膨らみ、それを日銀に引き受けさせる形で財政が拡大してきました。その結果、日本の公的債務、つまり、借金はGDP(国内総生産)の2.6倍になっていて、世界でも際立って財政規律の弛緩した国になってしまったのです。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生氏の提言「投資不足社会」
今、政府がやるべきは、中央銀行、つまり、日銀を政治利用することをやめ、中央銀行本来の役割を果たすようにすることです。そして、「入るを量りて、出ずるを制す」という原則に立ち返り、長期的で現実的な財政再建計画を明示するべきです。
もう一つ、政治改革について言うならば、わたしは国会議員の定数を減らすべきということを言い続けてきました。
─ 政治家はどれくらいの数が妥当だと考えますか。
寺島 日本は人口比で米国の3倍もの国会議員を抱えています。これが今後、人口が3割減っていくことを考えたら、わたしは最低3割減、理想としては5割減にしてもいいのではないかと考えています。
これは本来、経済人だからこそ、一般論ではなく、真剣に考えるべきテーマです。分かりやすく言うと、民主政治の究極的な目的は、政治で飯を食う人をミニマイズすること。極小化することが政治改革の基本です。
ですから、わたしは代議士の削減というテーマは必ず向き合うべきだと思うと同時に、経済人の覚悟が試されていると思います。
─ これは経済人も、政治も含めて国民全体が考え直すべき課題ですね。
寺島 もちろんです。経済人だけではなく、メディアも専門家も含めて、皆そうです。わたしは日本に今必要なのは国民会議だと思っています。
国民会議というのは、国民の目線で、代議士に任せるのではなくて、例えば、弁護士や会計士、税理士などの専門職やメディア、アカデミズム、労働組合、ジェンダー・高齢者団体、宗教団体など、日本再生国民会議とでも言うべき仕組みが必要です。
それには政党がどこであるかは関係ありません。責任ある大人たちが日本のあるべき筋道をつくり、それに賛同してくれる議員を推薦していくというような形の展開が、日本でできるかどうかが鍵だと思っています。
やはり、日本人として一番問いかけなければいけないのは、10年後、20年後、あるいは、この国の人口が1億人を割るといわれる2050年をもにらんで、一体これらの人が胸張って、この国は何を生業としていくのかということについて真剣に議論しないといけない。それが一番重要な構想だということです。