東北大学は5月15日、宮城県川崎町の伝統工芸品である手漉き和紙と、生分解性プラスチック(PBS)からなる新しい複合材料(グリーンコンポジット)を提案・設計し、試作に成功して力学・物理特性と生分解性を明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大大学院 環境科学研究科のLovisa Rova大学院生、Alia Gallet-Pandellé大学院生、同・王真金助教、同・栗田大樹准教授、同・成田史生教授(工学部材料科学総合学科兼担)らの研究チームによるもの。詳細は、ポリマーや強化材を含む複合材料などに関する全般を扱う学術誌「Composites Part A: Applied Science and Manufacturing」に掲載された。

長い天然繊維である楮(こうぞ)を主原料に日本独特の手法で漉(す)かれた和紙は、高い強度、軽さ、しなやかさを兼ね備えた素材として知られる。長年にわたって手漉き和紙はさまざまな場面で利用されてきたが、日常生活における和紙の利用機会は年々減少しており、新たな用途の開拓が求められていた。

また、マイクロプラスチックが引き起こす環境問題が深刻な状況となっており、自然環境において、微生物によって最終的に水とCO2に分解されるPBSの研究開発が進められている。PBSは熱可塑性の半結晶性高分子で、ポリプロピレンやポリエチレンなど一般的に使用されているプラスチックに匹敵する力学特性と加工性を持ち、堆肥化条件下での良好な生分解性を示す点を特徴としている。そこで研究チームは今回、手漉き和紙の新たな応用を目指し、和紙とPBSによる環境負荷の低いグリーンコンポジットを作製することにしたという。

  • 和紙、PBS、グリーンコンポジット(W2P1、P2W1、W3P2)の引張試験結果

    和紙、PBS、グリーンコンポジット(W2P1、P2W1、W3P2)の引張試験結果。右上隅の挿図はW3P2と和紙(出所:東北大プレスリリースPDF)

今回のグリーンコンポジットは、和紙3層とPBSフィルム2層が重ねられ、乾燥後にホットプレスで成形して作製された。そして、PBS単体、和紙単体、グリーンコンポジットの力学特性を評価するため、引張試験が実施された。グリーンコンポジットは、和紙3層・PBS2層(W3P2)のほかにも、比較として和紙1層・PBS2層(P2W1)、和紙2層・PBS1層(W2P1)も作製された。応力-ひずみ曲線がプロットされたところ、W3P2の「縦弾性係数」(値が大きいほど硬くて変形しにくい)が大きく、引張強度は和紙単体に比べて約2倍程度であることが確認されたという。

  • W3P2の断面画像

    W3P2の断面画像。赤色の部分が和紙(出所:東北大プレスリリースPDF)

和紙とPBSを積層して作製したグリーンコンポジットの断面は、PBSが和紙に含浸して繊維を取り囲んでいるように観察された。PBSが繊維を包んでつないでいることが、引張強度が増加した理由と考えられるとする。

次に、生ごみや汚泥から作った堆肥のコンポスト中に入れて、57日間(約8週間)の生分解性実験が実施された。コンポスト中でグリーンコンポジットの生分解性は極めて良好で、5週間後に82%が生分解されていた。その1週間後(トータル6週間)には、コンポストから取り出せないほど劣化しており、力学特性の評価を行えなかったという。一方、PBSは57%の生分解率だったとした。

  • CO2発生量と日数の関係

    (左)CO2発生量と日数の関係。MCは微結晶セルロース、Blankはコンポストのみ。(右)分解率と日数の関係(出所:東北大プレスリリースPDF)

さらに、コンポスト中におけるグリーンコンポジットの縦弾性係数、引張強度、破断伸び、密度の変化が分析された。比較のため、水中にグリーンコンポジットを入れた場合も調べられ、コンポスト中のグリーンコンポジットの縦弾性係数、引張強度、破断伸びは、水中の場合と異なり、4週間後に急激に低下することが確認された。そして、コンポスト中のグリーンコンポジットの重量は、2週間後に15%低下していたという。

  • コンポスト/水中におけるPBSおよびW3P2の縦弾性係数

    コンポスト/水中におけるPBSおよびW3P2の縦弾性係数(左上)、引張強度(右上)、破断伸び(左下)、重量の変化(右下)(出所:東北大プレスリリースPDF)

また縦軸に縦弾性係数、引張強度、伸び率の低下率を、横軸に生分解率を取って、グリーンコンポジットとPBSが比較された。すると、縦弾性係数、引張強度、破断伸びの低下率と生分解率には相関が見られ、偶然にも材料に関係しない結果が得られたとした。同様に、重量の低下率と生分解率との相関も見られたが、材料によって異なる挙動が示されたとする。

  • 縦弾性係数、引張強度、破断伸びのそれぞれと生分解率の関係

    縦弾性係数(a)、引張強度(b)、破断伸び(c)のそれぞれと生分解率の関係(出所:東北大プレスリリースPDF)

複合材料の生分解性の評価方法は、まだ十分に確立されていないという。プラスチックの生分解性の調査では、材料をコンポストに入れてCO2発生量や密度変化を測定するのが一般的だが、プラスチック系複合材料の分野では、多くの研究が材料を土壌に入れて密度の変化を測定したり、表面を観察して生分解性が議論されている。そのため、評価する物性で材料の生分解のし易さが変わる可能性があるとする。研究チームは今後、さまざまな生分解性複合材料についてより深く調査を行い、生分解性の評価方法そのものの研究を行っていく予定としている。