【国土交通省】港湾立地企業と「協働防護」 気候変動下の新たな浸水対策

国土交通省は、工場などが港湾に立地する企業と、国や自治体が足並みを揃えながら浸水対策に取り組む「協働防護」という新たな手法を打ち出した。気候変動への適応策との位置付けで、浸水対策の水準を底上げする狙いがある。「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の枠組みに基づき、企業へのリスク情報開示の要請が強まる中、事業継続計画(BCP)の策定にも資する取り組みとして注目されそうだ。

 港湾内にはコンテナターミナルや工場、冷凍倉庫、船舶係留場所など性格の異なる施設が立ち並ぶ。護岸や岸壁といった港湾施設の所有・管理主体も官民にまたがっている形だ。

 仮にまばらな浸水対策ゆえに民有護岸が浸水したような場合でも、管理者である企業の事業継続のみならず、港湾の物流や産業といった全体の機能に支障を与える可能性が高い。対策を実施しない企業によるフリーライドを防ぐ必要もある。

 海面が上昇を続けることで、台風の強大化や高潮・高波災害の激甚化が懸念される。ただ、これまでは港湾施設に必要な耐久性が供用期間中には変わらない想定だった。

 同省は4月に技術基準を定めた告示を改正し、気候変動が施設に与える衝撃の経年変化を織り込んだ設計をスタンダードに。これに先立つ22年、東京都が既存の防潮堤を最大で1.4メートルかさ上げする計画をまとめるという動きもあった。

 協働防護では、刷新した技術基準を踏まえつつ、港湾内の一定エリアに集う官民の関係者が護岸のかさ上げ箇所や対応時期など共通の目標を定めた上で、足並みを揃えて施設改良を進めていく。主に国や自治体が協議会を立ち上げつつ、積極的に企業を巻き込むような形が想定される。同省はまず、地方整備局などを通じ、新手法の周知を図る方針。気候変動への危機感を各地の港湾関係者が共有しながら、丁寧な合意形成が実現できるかが焦点だ。

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