電気通信大学(電通大)と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は5月13日、リハビリテーションロボットの「機械的な透明性」(動的透明性)をアシスト中に向上させる革新的な手法を開発したことを共同で発表した。
同成果は、電通大大学院 情報理工学研究科 機械知能システム学専攻の下山拓真大学院生、ATR 脳情報通信総合研究所の野田智之主幹研究員、同・寺前達也研究員、電通大大学院 情報理工学研究科 機械知能システム学専攻の仲田佳弘准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、5月17日にまでパシフィコ横浜で開催中のIEEE主催のロボティクス分野の国際会議「ICRA2024」にて13日に口頭発表が行われた。また、同国際会議の学会併設展示において、今回開発された技術を搭載した肩関節リハビリロボットの展示・デモ発表も実施中だ。
リハビリロボットの開発においては、動的透明性の実現が重要視されている。動的透明性とは、利用者が動いた際に、ロボットがその動作に追従して動き、ロボットの存在を力覚的に知覚できない状態を指し、使用者が自然な動きを保ちながら、効果的なリハビリを行えるようにするという特性のことである。
従来の動的透明性の研究では、ロボットがその動作に追従して動き、ロボットが使用者の動作を妨げないようにすることが目標とされていた。しかし、それでは肝心なアシストができないという問題があったほか、従来の駆動技術では、大きな力を出力した状態で動的透明性を高くしようとすると、制御が不安定になるという問題もあり、十分に動的透明性を高められないでいたという。
現実のリハビリでは、適時適切な支援力を提供することが必須で、特に中度から重度の障害を持つ患者に対しては、大きなアシスト力を出力する必要がある。しかし、従来技術ではこのような状況に対して動的透明性を高めることができない。そこで研究チームは今回、このような患者群のため、リハビリロボットが十分なアシストを安定して行いつつも、使用者の動作を妨げないようにする「アシスト中の動的透明性」を高めることを新たな研究コンセプトとして提案することにしたとする。
このような背景から、研究チームがこれまでに行ってきたのが、新たな「融合型ハイブリッド直動アクチュエータ」というコンセプトの提案と、空圧と電磁力を用いる「融合型ハイブリッド直動アクチュエータ」(一体構造空電ハイブリッドアクチュエータ)の研究だ。
そこで今回の研究では、アシストロボットの分野において、アシスト中の動的透明性を実現するため、融合型ハイブリッド直動アクチュエータを搭載した外骨格ロボットの駆動関節が開発された。また、患者のさまざまな動きを想定した「ロボット外部からの動きの外乱」を加えるベンチマーク試験を開発し、機械的な透明性を検証する実験が行われた。
検証実験では、動きの外乱を試験機に加え、発生しているアシスト力、つまり駆動関節の発生トルクをどの程度正確に保てるかが評価された。同試験では、動きの外乱に対して、設定されたトルクが正確に制御されているほど、機械的な透明性が高いことを示す。外乱は速度として遅い/速いの2パターン、試験機の目標トルクは3パターンが設定され、試験機のトルクの調整能力が広範囲にわたって検証された。また、空気圧シリンダのみを使用した制御と、空気圧力と電磁力のハイブリッド制御の効果の比較も行われ、後者による駆動関節のトルク制御が最も正確で、開発された技術の機械的な透明性が高いことが検証されたという。
実験結果から、駆動関節患者は想定された動きに対して高い追従性と正確なトルクの制御が示されたとした。患者の動きを想定したさまざまな速度の動きの外乱に対して、ロボットの駆動装置が迅速に応答し、適切なアシストトルクを提供可能なことが示された。これにより、リハビリ中の自然な動作を、アシスト中にサポートする能力が実証された。また、ハイブリッド制御を用いたシステムは、従来の空気圧シリンダのみよりも外乱下でより正確なトルク制御が可能であることも確認された。これにより、実施可能なリハビリの幅と、患者のリハビリ中の快適性が向上する可能性があるとしている。
今回の技術のさらなる発展により、さまざまなシチュエーションにおけるリハビリへの応用が期待されるという。特に、さまざまな程度の障害を持つ患者に対する、カスタマイズされたリハビリプログラムの実現が見込まれるとした。さらに、この技術が他のリハビリ機器にも応用されることで、リハビリの選択肢が拡がり、より多くの患者が恩恵を受けることが可能になるとする。将来的には、外骨格ロボットの駆動技術が、患者の日常生活への復帰支援と生活の質の向上に大きく寄与することが期待されるとしている。