国立天文台(NAOJ)は5月10日、地球型生命に必須な元素の1つであるリンが太陽系に多い理由として、太陽系が誕生する前の80億年前のころに多かったタイプの「新星爆発」から生み出された可能性があることを発表した。

同成果は、NAOJ JASMINEプロジェクトの辻本拓司助教、西オーストラリア大学 国際電波天文学研究センターの戸次賢治教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

  • 今回の研究の概念図

    今回の研究の概念図(C)NAOJ(出所:国立天文台Webサイト)

ビッグバンで宇宙が誕生した後、恒星が姿を現すまでは宇宙に存在する元素は、大半が水素で、その次に多かったヘリウム、そしてわずかなリチウムだけだった。その後、1~2億年が経過して宇宙で第1世代の恒星であるファーストスターが誕生し、核融合が始まると、より重たい元素が合成されていった(恒星の核融合では鉄までが合成される)。

そして、さらに太陽質量の8倍以上の大質量星が一生の最期に起こす超新星爆発や、その爆発の後に残される中性子星(ブラックホールが残される場合もある)同士の合体などによって、鉄よりも重たい元素も合成されていったと考えられている。そして今では、天然では約90種類の元素が存在するほどまでに多種多様となった結果、地球のような岩石型の惑星も存在できるようになり、さらにその上で地球型生命が誕生し、反映できるようになった。

地球型生命に欠かせない必須元素はいくつもあるが、DNAやRNAにも含まれ、その1つとして知られているのがリン。太陽系のもととなった材料(星間ガスや星間塵)は、太陽系誕生以前に存在していたいくつもの大質量星が起こした超新星爆発によってばらまかれた物質が集まって混ざったものであるとされる。しかしリンの場合、太陽系内に存在する総量を太陽系誕生以前の超新星爆発による合成量だけで説明するのは難しく、どのようにして同元素が生成されてきたのかが解明されていなかったという。そこで研究チームは今回、その問題の解決の糸口として、白色矮星の表面で起こる新星爆発に注目することにしたとする。

白色矮星は、太陽質量の最大で8倍程度までの恒星が燃え尽きた後に残されるコンパクト天体(太陽もおよそ50億年ほどの後に白色矮星になる)。白色矮星が赤色巨星などの晩期型星と連星系を構成している場合、その膨張した相方の星の表面付近の物質を強い重力で剥ぎ取って、自身の上に降り積もらせていくことがある。そうして降り積もった物質の合計質量が、太陽の約1.4倍(チャンドラセカール限界質量)を超えると、核反応が暴走的に発生し、何等級も明るくなるほどの増光現象を起こすのが新星爆発だ。この中でも、重い白色矮星が起こす新星爆発は、軽い白色矮星での新星爆発や、重い星が起こす超新星爆発と比べて、桁違いに大量のリンを生み出すことを発見したという。

今回の研究では、元素の存在量の変化を再現するモデルも作成され、ほかの元素に対してリンが存在する量の比率が、およそ80億年前の宇宙で最も高かったことに、「重い新星」が大きく寄与していたことが判明したとする。これより前は重い星の超新星爆発が、これより後は別の種類の超新星爆発の寄与が大きかったこと、さらに同じ時期に重い新星が発生する頻度が低くなったことから、リンの比率は80億年前の宇宙でピークになったという。

リンの量の時間変化を再現する今回のモデルは、地球での生命誕生の謎を解く鍵としての知見の1つになることが期待されるという。研究チームは今後、ほかの元素の存在量の時間変化もこのモデルで再現できるかどうかを検証し、モデルの正当性をより高めていくことを計画しているとした。