こんにちは!科学コミュニケーターの片岡です!
みなさんは、「循環(じゅんかん)」という言葉を聞いたことはありますか?モノが一回りして、もとに戻ること。また、それを繰り返すことです。この循環のしくみは、様々なモノの流れに当てはめることができます。今回は、私たちの生活を「循環」という視点からみてみようと思います。
私たちの暮らしと「循環」
まず、ヒト以外の生きもの同士のつながりを考えてみましょう
植物を草食動物が食べて、草食動物を肉食動物が食べて、その動物のうんちや死んでしまった動植物を微生物などが食べて分解し、また植物や他の生物の栄養分になります。それぞれの生きものの暮らしの中で生まれるいらないものは他の生物の生活に利用され、終わりなくつながって続いていきます。これは「循環している」といえそうです。
では、私たちヒトの暮らしを考えてみましょう。
私たちは生活の中で、食べ物だけでなく、様々なモノを使います。例えば、衣服。多くの服にはプラスチックが使われています。プラスチックは、石油という資源から作られます。作られたプラスチックは衣服など様々なモノに加工され、使われます。そして、使い終わったモノ、特にプラスチックは、新しいプラスチック製品をつくるための資源として利用することや、微生物などが食べて分解することが難しい素材です。そのため、誰に使われることなく「ゴミ」となって、ためられていきます。
これは「循環している」とは、いえなさそうです。
2020年にこんな研究結果が発表されました。
「建物の資材となるコンクリートや日用品によく使われるプラスチックなど、人の手によってつくられたモノをすべて合わせた重さが、植物や動物など自然に生息する生物をすべて合わせた重さを上回った可能性がある」*1
つまり、人がモノをたくさん作りだしているよ。ということ。
先ほどの流れをみるとたくさん作られたモノは、使われて、捨てられて、終わりという一方通行の流れになっているようです。
一方通行の流れだと困ることがあります。
モノを作る材料に限りがあったらどうでしょう。誰も使えないゴミが出続けたらどうでしょう。
……生活に必要なモノを作る材料が手に入らなくなってしまったり、地球上はゴミでいっぱいになってしまったりするかも。そんな世界で私たちは長く暮らしていけるのでしょうか?
「3R」聞いたことある?
循環していない私たちの暮らしは、この先長く続けることは難しいといわれています。
少しずつでも「ゴミ」を減らして、暮らしの流れを循環に近づけるため、「3R」という考え方が提案されています。
Reduce(リデュース):ゴミが出ないように、使うモノを減らすこと
繰り返し使えるマイボトルやエコバッグなどを使って、そもそも使うモノの量を減らして、ゴミになる量も減らすことができます。
Reuse(リユース):モノをすぐに捨てず、くり返し長く使うこと
使うモノの量を減らすとしても、私たちの生活には欠かせないモノもたくさんあります。それらを無くすのではなく、長く使うことで、新しく使われるモノや捨てられるモノを減らすことができます。
Recycle(リサイクル):使い終わったモノの素材を、新たなモノの資源として再利用すること
そして、使い終わったモノを資源として、また新しいモノをつくることができれば、ゴミになるものはなくなります。
それぞれの行動の頭文字をとって「3R」。
これらの活動を広げることができれば、一方通行のモノの流れを少しずつ、循環に近づけることができそうです。
国は「3R」について、より行動をしてほしい順にReduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)と提案しています。最近では、レジ袋や使い捨てスプーンなどの有料化にともなって、Reduce(リデュース)行動をしている方も多いのではないでしょうか。一方で、手軽に様々なモノが買える今、「モノを長く大切に使う」という意識を忘れてしまうこともしばしば……。
ということで今回は、3RのうちReuse(リユース)について考えてみたいと思います!
「Reuse」を暮らしに取り入れる
「Reuse(リユース)」と言えば、私は一番にフリーマーケットが頭に浮かびます。今では、このフリーマーケットをオンライン上で展開し、誰でも気軽に参加できるしくみがさまざまあります。今回は、以前未来館でご縁のあった、フリマアプリ「メルカリ」を運営している株式会社メルカリ(以下、メルカリ)に取材をさせていただきました。メルカリの活動を例に今の私たちの生活にあったReuse(リユース)行動を考えてみましょう。
Reuseは、モノをすぐに捨てず、繰り返し長く使うこと
自分はもう使わないけれど、まだ使うことができるモノ。それをすぐに捨てず、使いたい人へ届けることで、ゴミになる量を減らすことができます。また、新しくつくられる量も減らすことができます。
実際にメルカリの調査によると、捨てられるモノのうち「衣類」に注目した結果では、アプリで取引されたことによって、日本だけでも年間約 4.3万トン(2022年 4月~2023年 3月算出分)の量の衣類が捨てられることを回避したそうです。この量は、環境省が出している日本で廃棄される衣類の量(年間約 48万トン)の約 9%に当たります。
そもそも、フリーマーケットは昔からおこなわれてきましたが、開催日や場所が決まっていたり、現地に持っていったりする必要があります。アプリで実施できる手軽さは、Reuse行動が広がるきっかけになりそうです。そして中には、始めた行動から、モノに対する考え方が変わったという人々もいるようです。メルカリのアンケート調査によると、はじめは「お得だから」や「楽しそう」という動機でも、取引を続けることで「物を大事に扱うようになった」や「新品にこだわらなくなった」などの意識の変化が見られたそうです。
ここでは、オンラインでモノをやり取りした際に、手元にモノが届くまでに目を向けてみましょう。
届け先が決まったモノは、トラックや船、飛行機などの輸送機で運ばれてきます。それらが動くとき、多くのエネルギーが必要で、このとき「二酸化炭素」が排出されます。
この二酸化炭素は、目に見えないですが地球上に存在するモノ(物質)です。動物の活動やモノが燃えた時に発生する二酸化炭素は、植物などが吸収して使い、循環します。しかし、植物などが吸収する量より排出される量が多すぎるため、循環のしくみがうまく回っていないのが現状です。必要以上に排出された二酸化炭素は地球温暖化を促進させる原因の1つとも言われています。
ただ、いきなり自分の手元に届くまでを考えることはちょっと難しい……
そこで、ぜひしくみを作り出している企業の情報も参考にしてみてください。各会社が出している情報をヒントに、目に見えないモノの流れやしくみも一緒に考えてみましょう。
画像:移動が増えてしまう要素(遠くから運ぶ、何度も運ぶ、急いで運ぶ)
循環する社会を目指して
今回は、「循環」というしくみに注目して私たちの暮らしを振り返ってみました。私たちは、生活の中でたくさんのモノを使っていますが、その多くが循環していないのが現状です。循環していない今の暮らしは、いずれはバランスがくずれてしまい、長くは続かないでしょう。この流れを少しずつでも変えていかなくてはいけません。
そこでまずは、「使い終わったらどこに行くんだろう」など、普段は見えない、目の前のモノの前と後の流れを想像することから始めてみてください。だんだん自分の暮らしの流れが見えてくれば、変えられそうなところも見えてくるかもしれません。
この記事を読んで、いつも当たり前のように使っているモノに、少しでも「これって……」と考えをめぐらす瞬間があればうれしいです。ぜひ、未来館に訪れることがあれば、みなさんがよく使うモノのお話をきかせてください!
引用文献
*1 Elhacham, E. et al. 2020. Global human-made mass exceeds all living biomass. Nature, 588: 442–444.(https://www.nature.com/articles/s41586-020-3010-5)
*2 メルカリ総合研究所「2023年度 サステナビリティ関連の意識・行動変容とフリマアプリ利用の相関に関する調査」(https://about.mercari.com/press/news/articles/20230721_sustainabilitysurvey/)
参考
・環境省「SUSTAINABLE FASHION」(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)
・株式会社メルカリ FY2023.6 Impact Report (https://about.mercari.com/sustainability/reports/)
・メルカリ総合研究所(https://pj.mercari.com/souken/)
執筆: 片岡 万柚子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。学校団体を対象とした企画やコンテンツの開発も担当。最近は、「対話」「生物」「自然環境」に関する活動や企画に取り組む。
【プロフィル】
大学で初めて土を基盤とした生態系のすごさ、そこで暮らす生き物たちの面白さを知り「こんな身近に全く知らない世界が広がっていたのか!」という感動から、土壌動物の世界にハマりました。当時の感動を、多くの人々にも伝えたいと思い、未来館へ。今は、その感動だけでなく、身近な自然の魅力を共有したり、楽しく学びを得られる仕組みを考えたりしています!ぜひ、一緒におもしろがりながら、身近な感動を発見しましょう!
【分野・キーワード】
土壌生物学、生態学、自然環境、生物