花粉症やぜんそく、食物アレルギー、じんましんといったアレルギー性疾患の治療薬になり得る低分子化合物「MOD000001」を山梨大学大学院総合研究部医学域免疫学講座の中尾篤人教授(アレルギー学)らが発見した。免疫細胞でアレルギー症状を引き起こす根本要因となるマスト細胞を標的として特異的に抑え込むとみられることから、薬剤候補として少ない副作用で持続的な効果が期待できるという。
アレルギー性疾患は、花粉やダニなど環境中にあるアレルゲンによってマスト細胞が活性化し、ヒスタミンなどアレルギー反応を引き起こす分子が放出されておこる。現在広く使われている抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモン(ステロイド)などはマスト細胞などからでる分子を標的とする対症療法にとどまる。このため、投与を中止すると比較的早い段階で症状が再発するケースが多いとされてきた。
中尾教授はマスト細胞自体を標的とした抗アレルギー薬ができれば、根本治療に近づけると考え、マスト細胞の表面にある「KIT」という細胞の活動性や生存を司る受容体分子に注目。このKITとの特異性が極めて高い阻害剤の開発に取り組むことにした。
日本と米国に拠点を置く創薬企業のアリヴェクシスとスーパーコンピューターを用いて、タンパク質の立体構造の時間的変化まで考慮した分子動力学シミュレーションを行い、KITの働きをじゃますると推定できる低分子化合物を数個まで絞り込んだ。この中から細胞を用いた試験管内での実験でMOD000001が最もKITにだけ結びつくことを確認し、新しい抗アレルギー薬になり得ると明らかにした。
じんましんのような症状がおきるマウスを用いた実験では、MOD000001を油のような液体に溶かして飲ませることでアレルギー症状を著しく軽くできると実証した。
マウスやヒトの細胞を培養してつくったマスト細胞を用いた実験では、MOD000001がマスト細胞の活性化や生存の延長、生体内の移動を著しく妨げると示され、マウスを用いた実験で7週間の投与を経ても副作用はなかった。
長期投与でマウス皮膚におけるマスト細胞の減少も確認されており「より強力かつ持続的な抗アレルギー作用、既存の抗アレルギー薬に反応しなかった患者さんへの効果、既存薬の減量が期待できる」と、中尾教授は話す。現在は早期の臨床応用を目指し、薬を安全に効果的に投与する仕組み「ドラッグデリバリーシステム」を効率化するための改変を試みている段階という。
研究は、アリヴェクシスなどと共同で行い、4月2日に米アレルギー学会誌「JACIグローバル」電子版に掲載された。
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