混沌の中、成長を続ける北欧について「スウェーデンやアイスランドの人達に『なぜ成長のための取り組みができているのか』と問うと『小さい国なので、常に危機感がある』という答えが返ってきた」と小宮山氏。今、世界が分断、分裂し、先行き不透明感が強まる中、これからの社会像をどう描いていくか。「東京一極集中が進むと、地方が立ち行かなくなる」として小宮山氏は新しい産業の創出が大事と強調。再生可能エネルギー、都市鉱山、バイオマスの成長分の活用で資源・エネルギーの「自給」が可能と訴える。
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アメリカの弱体化で世界の先行きが不透明に
─ 今、世界全体が先行き不透明感に包まれています。国際政治、地政学の行方も混沌としていますが、現状をどう見ていますか。
小宮山 先行きについては懸念しています。一言で言えばアメリカが弱体化し、国内に対しても余裕がなくなっています。
歴史的経緯で言えば、第1次世界大戦後に国際連盟ができ、それでは不十分だということで第2次大戦後に国際連合をつくり、IMF(国際通貨基金)などの世界の仕組みづくりを主導してきたのがアメリカです。
しかし、これらの仕組みは、最後はアメリカの軍事力、経済力で担保されていた面がありました。今はその担保がなくなってしまったために、世界がこれからどうするか?ということになっています。
─ 2024年11月のアメリカ大統領選の行方を世界が注視しています。
小宮山 ジョー・バイデン氏が再選されたとしても、これから世界がどうなるという意味で大変だと思います。ドナルド・トランプ氏は大統領在任時を見ても、最近の発言を見ても、やはり「アメリカファースト」で、ほとんど国内のことしか考えていません。世界に対する意識がないわけです。
一方、欧州や、日本の一部は世界に対する意識を強く持っていると思いますが、残念ながら「力」がありません。警察力に相当する軍隊の力が弱い。金で牛耳ろうにも不足しています。
どの国も国内の社会保障を維持する力がなくなってきていますが、格差が開いているからです。全体の成長が止まっている中で資本主義体制をとっていますから、格差が開くわけです。
格差が開くと貧しい人の不満が溜まってくるわけですが、その状況を改善するのは社会保障しかありません。しかし今は、その社会保障を維持する力がないのです。その中でもスウェーデンなどの北欧の国々はうまくいっています。
─ この要因をどう分析していますか。
小宮山 彼らは極めて長い時間をかけてソーシャルデモクラシー、社会民主主義的な国をつくってきました。70%近く税金を払うけれどもリターンがあり、比較的格差が小さい国となったわけです。
ただ、北欧の人達と話していると、10年ほど前までは安定していたそうですが、今は人口の1%ほどの移民が入ってきている。国籍と関係なく、スウェーデンに在住している人には同じ社会保障を与えるという形でしたが、維持が難しくなっている。
アメリカはこれまで移民を大歓迎するというスタンスで来ました。今のアメリカを支えているのも移民です。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は移民の末裔ですし、テスラ創業者のイーロン・マスク氏にしても南アフリカからの移民です。
アメリカとして移民否定はあり得ないわけですが、束で入って来られると、その生活を賄う能力は、今のアメリカにはありません。
アジアを見ても、中国の出生率は日本を下回りましたし、韓国の少子化にも歯止めはかかっていません。
特に韓国は首都・ソウルへの集中が激しく、若者は皆、電機大手のサムスンに入りたがっている。必死で受験勉強を勝ち抜き、いい大学を出てもサムスンに入社できるのは、ほんの一握りです。私はこれらの国々への解決策を持ちません。
再生可能エネルギーと都市鉱山の活用を
─ 日本も少子高齢化、人手不足で苦しんでいます。
小宮山 実を言うと、日本でも状況は同じです。移民ではありませんが「東京一極集中」の問題です。ここまで進んだら、地方は本当に立ち行かなくなります。しかし、日本には解決策はあると思っています。それが、私が提唱している「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする」プラチナ社会です。
─ 具体的には、どういう姿を目指していきますか。
小宮山 再生可能エネルギー、都市鉱山(寿命のきたビルや自動車、家電、携帯電話、パソコンその他の製品から金属材料を回収し、再利用すること)、バイオマスの成長分を主な資源とし、すべての人が教え学びあい、健康寿命が生命寿命と一致し、文化が栄える社会です。
今の日本における地方の衰退の本質は、第1次産業の衰退です。GDP(国内総生産)で言えば農林水産業は10兆円程度です。今、日本のGDPは550兆円程度ですから2%に満たないわけです。2%では地方を維持することはできません。
今、日本は50兆円規模の資源を輸入しています。それを再生可能エネルギー、都市鉱山、バイオマスの成長分を利用することで、海外に支払っていたものが国内に落ちるようになる。10兆円の農林水産業が、60兆円の第1次産業に生まれ変わることができる可能性があるということです。
─ 地方には潜在力があるということですね。
小宮山 それを顕在化させればいいんです。それによって過疎、少子化など地方の衰退に歯止めをかけることができます。
2022年の日本の出生率は1.26ですが、東京だけを見ると1.04です。地方で生まれ育った人が東京に出てくると子供を産まなくなるということです。そうした国は希望がなくなりますから、出生率が1を割る世界になってもおかしくありません。問題は、それがわかっているのに、なぜ止める策を打てないのかということです。
─ 東京一極集中が少子化、日本の衰退を招いていると。その意味で、国のグランドデザインをどう描くかが重要ですね。
小宮山 ええ。例えば、都市鉱山について言えば鉄、アルミニウム、銅といった金属は循環させれば十分な資源量があります。そうすると鉄は5分の1、アルミニウムであれば30分の1のエネルギーで再生することができます。
省エネになりますし、金属を溶かす際のエネルギーに再生可能エネルギーを使えば、完全循環型社会を実現することができるということです。この姿を今後、世界も目指してくるわけですが、先んじて日本で構築しようということです。今、サーキュラーエコノミー(循環経済)が言われていますが、その最終形は再エネによる循環です。日本がこうした姿を実現するための活動を今、進めているのが「プラチナ構想ネットワーク」なのです。
将来の電力消費量をどう賄うか?
─ 脱炭素も世界的な課題ですが、日本のエネルギーの先行きをどう見ていますか。
小宮山 今、私が言っているエネルギーに関する課題は電力の不足です。今の日本の発電量はざっと1000テラ(1兆、10の12乗)ワットアワーです。それが脱炭素の目標年である2050年には2000テラワットアワーになると考えておく必要があると考えています。この時には脱炭素で石炭・石油・天然ガスは燃やすことができず、ほとんどが電気になっているでしょう。
デジタル化の進展で電力消費量は増大しています。デジタル化がなければ1500テラワットアワーで足りると思いますが、AI(人工知能)などは莫大な電気を消費しますから、余裕を見て2000テラワットアワーは必要だろうと。
その電気を何で賄うかというと、再生可能エネルギー以外では原子力発電しかありません。ただ、どんなに頑張っても原子力で確保できるのは200テラワットアワーだと思います。そして水素やアンモニアの輸入については、水素に関する国の計画を完全に実現しても100テラワットアワーです。CCS(二酸化炭素地下貯留)の技術開発も重要ですが量的には知れています。
原子力や水素・アンモニアの輸入を総動員しても、必要な電力量にはまったく足りません。天然ガスを活用しようとしても、おそらくこの時代には価格が今の10倍になっていてもおかしくありません。
世界が脱炭素を進める中、日本は遅れていますから、天然ガスを使用する際にペナルティ的な価格になっている可能性が高いのです。
こうしたことを考えると、先程お話した都市鉱山を再エネ、国内の再エネで循環させるというシステムを構築しなければ、日本はもたないということです。
─ 日本最大手の鉄鋼メーカー・日本製鉄はアメリカのUSスチール買収を打ち出しました。これをどう見ますか。
小宮山 日本製鉄は国内市場の先行きが厳しい中、高炉の閉鎖など合理化を進めています。一方、USスチールは7割以上の鉄を電炉で生み出している会社です。その技術を買おうという狙いが1つあると思います。
そしてアメリカの鉄は、まだ飽和していません。国民1人あたり10トンの鉄が使われると飽和しているのですが、アメリカはそこまで行っておらず、まだ成長の余地があるんです。日本製鉄はそこにチャンスを見出したと。ビジネスとしては正しい選択だと思います。
森林資源に見る日本の可能性
─ 新しい国のカタチを描く作業だとおもいますが、政府を動かす必要もありますね。
小宮山 政府は、計画を作って、民間企業がそれで動くのだとわかれば動きます。法律もつくるし、制度もつくるはずです。ただ、現時点ではまだ、そこまで行っていません。できると思えば政府も支援してくれると思いますが、まだ自信がないのだと思います。
例えば、まだ原子力が必要かという議論をしています。先程お話した通り、原子力もマイナーな議論だというわけではないですが、それはあくまで二義的な議論、最大の課題は国内再エネの開発だとお伝えしても、まだ伝わっていません。
─ 日本は持てる資源を生かし切れていないという声は強いですね。国土の7割を占める森林資源の活用も必要ですね。
小宮山 森林に関しては、民間企業の意欲は非常に高いものがあります。例えば、「プラチナ構想ネットワーク」では「森林産業イニシアティブ」を設立しましたが、これに関わりたいということでプラチナ構想ネットワークに入会した企業は約30社に上ります。
─ 期待の持てる企業が入ってきているわけですね。
小宮山 例えば、所有者不明土地の問題がありますが、森林の場合、どこまでが誰の土地なのかの測定に課題がありました。
それをプラチナのメンバーでもあるアジア航測は、航空機を飛ばし、そこからパルスレーザーを照射し、その反射を測定することで、地形や樹種、形状などを把握することができます。
その計測の結果と公図などを突き合わせることで、これまでわからなかった森林のことが、かなりの部分わかるわけです。この測定やその他の情報を整理することによって、林野庁が公表している樹木量の倍くらいはあることがわかりました。
この計測データを分析する企業に確認したところ、長野県などいくつかの県では、県全域が計測済みだといいます。どのくらいの期間でできたか聞いたところ、例えば佐賀県については、3人で半年だそうです。日本全国を測定することも可能だと思います。
─ 日本の山は急峻で、それが森林活用を阻んでいるという意見もあります。
小宮山 それでも活用できる場所はたくさんあります。北海道全体で見ると、スウェーデンよりもなだらかです。江戸時代の馬を使った林業は難しいでしょうが、機械を活用すればできます。
そして林道の整備も必要ですが、投資する価値はあります。林業が動けばロジスティクスの道ができるということです。そういう場所に住む人は、ある程度リスクを取る覚悟がある人でしょうから、道ができれば過疎の解消にもつながります。
─ 明治維新や戦後など、先人は危機感を持って取り組んできたと思いますが、今の日本には欠けているように思います。
小宮山 スウェーデンやアイスランド、フィンランドといった北欧の人達に「なぜ、様々な取り組みができているの?」と聞くと、「小さい国なので、常に危機感がある」という答えが返ってきました。
アイスランドは人口は30万人ですが、エネルギーは水力と地熱でほぼ100%賄っています。ノルウェーは油田・ガス田を保有する資源国ですが、化石燃料のほとんどは輸出し、電力の多くを水力で賄っています。彼らには危機感と知恵がありますね。
─ 日本も自らの潜在力を見つめ直す必要がありますね。
小宮山 日本は明治維新以来、工業で国を発展させていた一方で、農林水産業に補助金を出してスポイルしたために発展していません。今は、農林水産業を見直すことで日本にもチャンスが出てくると思います。