はじめまして! 科学コミュニケーターの澤田拓実です。2023年4月に日本科学未来館にやってまいりました。海と地形と船が好きです。

 

さて、未来館では科学的な観察とスケッチをテーマとする新しいワークショップが始まりました。そのタイトルは「科学の目で見て描いてみよう」。私、澤田はその企画から実施まで担当したメンバーの一人です。

 

「科学の目で見て描いてみる」とは、モノを観察して科学的なスケッチをつくるということです。科学者たちは新しい生物や、望遠鏡で見た月の表面など、驚きや発見を人々に伝えるために多くのスケッチを残してきました。

歴史上、科学の発見をスケッチに残してきた人物として、ガリレオ、ヘッケル、カハールといった人々をあげることができます。

ガリレオ・ガリレイ(ユリウス暦1564年-グレゴリオ暦1642年)は、「ピサの斜塔から2種類の球を落とす実験」や「教会で揺れるシャンデリアから振り子の等時性を発見した」などの伝説がありますが、望遠鏡をいち早く使っていたことでも知られています。1609年、ガリレオは望遠鏡で月を観察し、そこにデコボコや黒い部分があることを発見しました。その時のスケッチが『星界の報告』として出版され、今でも読むことができます。

また、エルンスト・ヘッケル(1834-1919)という生物学者は、様々な生物のスケッチを描いた『自然の芸術的形態』という画集を出版したことで有名です。とくにクラゲや放散虫が視覚的に美しく感じられるように描かれています。

そして、カハール(1852-1934)という解剖学者・神経科学者は、神経系に色をつけて観察しました。そのことにより、網のようにつながっていると思われていた神経系はニューロンという途切れ途切れのパーツでできていることを発見しました。そのスケッチはインターネットでも簡単に見ることができます。カハールはこの研究成果で1906年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞しました。

このように、科学の発見をスケッチという形で残して他の人々に見せることは、新しい知識を広めたり、親しみやすさを感じてもらったりするために意味があります。

しかしながら、自分でもやってみようとすると迷うことがあります。そもそも、科学的なスケッチを描く方法とは何でしょうか? 美術のスケッチとは違うポイントがあるのでしょうか? こうした描き方の工夫について、私たちは意外にも多くを知りません。

図. 魚を観察する様子

そんな疑問にもお答えすべく、このワークショップでは、科学的なスケッチの描き方とそのための観察方法について学びます。「美術のスケッチとの違い」や「写真や動画を簡単に残せる時代にスケッチを描く理由」についてもお伝えします。身近な「にぼし」(カタクチイワシ)と深海魚のメヒカリ(アオメエソ/マルアオメエソ)を線と点々で描き、完成したスケッチをシールで持ち帰れるというお土産付き!

体の色、ヒレ・エラの形、目の大きさをよく観察しながら、カタクチイワシとメヒカリ、それぞれの泳いでいる海の様子や食べているエサについて想像してみてください。

 

大切なことは、絵の上手さではありません。見ているものについて「不思議だな」と思う好奇心です。「この部分はどのような使い方をするのだろうか?」「カラダの色や模様の理由は何だろうか?」などと疑問をもちながら観察とスケッチに取り組みましょう。不思議に思うこと、好奇心をもって観察することを、このワークショップで大事にしていきます。

 

この体験を通して、きっと自宅に帰ってからも観察とスケッチを続けられるようになるでしょう。子どもから大人まで、みなさんの知的好奇心と探究心を育てるワークショップです。

 

「魚を観察して描いてみたい」、「科学的なスケッチの方法を学んでみたい」、「自分でスケッチを描いてみたいものがある」という方は、ぜひ未来館へお越しください! 一緒に科学の目を育てていきましょう!

参考文献

  • 有賀雅奈『How to Draw Scientific Illustration オブザベーショナル・ドローイングの基礎編』2015年
  • ヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニ(田中一郎訳)『ガリレオ・ガリレイの生涯 他二編』岩波書店、2023年。
  • 長谷川匡弘(編)『自然史のイラスト集:大阪市立自然史博物館第54回特別展「自然史のイラストレーションー描いて伝える・描いて楽しむー」解説書』大阪市立自然史博物館、2024年。
  • ロレイン・ダストン、ピーター・ギャリソン(瀬戸口明久、岡澤康浩、坂本邦暢 、有賀暢迪 訳)『客観性』名古屋大学出版会、2021年。


Author
執筆: 澤田 拓実(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティ企画全般に携わり、対話や情報発信を行う。地球科学や深海探査、天文学・宇宙開発の動向に注目している。これまで、物をじっくり観察して科学的なスケッチを描くワークショップの開発や、アクセシビリティ推進の取り組みとした視覚障害者むけ展示ツアーなどを担当してきた。

【プロフィル】
理科の先生をめざして教育学や地形、気候、植物分布などを学んでいた大学生の頃、「授業以外の科学の伝え方」として博物館と科学コミュニケーションに出会いました。日進月歩の科学技術に向き合っていくにはどうすればよいか悩み、科学史・技術史を専攻したこともあります。「やっぱり実践の場でみんなと一緒に考えたい!」と思い未来館にやってきました。

【分野・キーワード】
科学技術史、自然地理学、海洋、船