溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因となって臓器や組織が壊死(えし)する恐ろしい「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」(STSS)の感染を抑制する特定の分子の塊を見つけた、と神戸大学などの研究グループが発表した。治療薬の開発などに役立つ可能性があるという。

溶連菌は通常は風邪程度で済むが、劇症型になると「人食いバクテリア」と呼ばれ、致死率も高い。STSSの患者数は今年に入り、過去最多だった昨年を上回る勢いで全国的に増加する傾向にあり、厚生労働省も注意を呼びかけている。

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    A群溶血性連鎖球菌の電子顕微鏡写真(東京都感染症情報センター提供)

研究グループは、神戸大学大学院工学研究科の森田健太助教、丸山達生教授、同大学院医学研究科の青井貴之教授のほか、藤田医科大学の港雄介教授、同大学病院の池田真理子准教授、名古屋市立大学の長谷川忠男教授らがメンバー。

研究グループによると、溶連菌はDNA分解酵素(DNase)を分泌してヒトの白血球中に多く存在する好中球による感染防御機構を壊し、ヒト体内への侵入を有利に進めて感染する。このためDNaseの阻害剤が見つかればSTSSの治療に役立つと考えられていたが、これまでに人体に投与可能なDNase阻害剤は見つかっていなかった。

研究グループの池田准教授や青井教授らは福山型筋ジストロフィー(FCMD)の患者由来のiPS細胞を作成し、これを用いて大脳組織を再現。「Mannan007(Mn007)」と呼ばれる低分子化合物を投与するとFCMDに関係する糖鎖量が回復し、FCMDの症状を改善する治療薬になる可能性がある、と2021年9月に発表している。

同グループは今回、このMn007がウシの膵(すい)臓のDNA分解酵素の働きを阻害することを発見。Mn007分子が水中で凝集体、つまり塊になるとDNaseの働きを特異的に阻害することが分かった。DNase以外の酵素にMn007の塊を作用させても酵素の働きを阻害しなかったことから、Mn007の塊はDNaseに特異的な阻害剤であることも判明したという。

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    Mn007の濃度が上がるにつれてMn007の凝集体が増え、それに伴ってDNaseが阻害されることを示すグラフ(神戸大学/神戸大学などの研究グループ提供)

研究グループはMn007がSTSSの治療薬候補になることを確かめるために、白血球を含むヒトの血液にMn007と溶連菌を加えて溶連菌を培養した後、溶連菌の数を数えた。すると、Mn007を加えた血液中では溶連菌の増加率は低下して増殖しにくいことが明らかになった。

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    血液にMn007を添加すると溶連菌の増殖が抑制されたことを示すグラフ(神戸大学/神戸大学などの研究グループ提供)

これらの結果から研究グループは、Mn007の塊は溶連菌が分泌するDNaseを阻害し、白血球の持つ感染防御機構を正しく働かせる薬になる可能性があるとしている。

今回の研究成果は低分子の塊が病気に関連するタンパク質の阻害剤に使用できることを示す初めての成果で、新薬に結び付く可能性もあるという。研究成果は、4月16日に米国化学会誌「JACS Au」に掲載された。

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    Mn007が水中で塊状に凝集して溶連菌が分泌する酵素を阻害するイメージ(神戸大学提供)

STSSの初発症状は咽頭痛、発熱や食欲不振、吐き気、全身倦怠感などだが、急激に進行して循環器や呼吸器の不全、血液凝固異常、肝不全や腎不全など多臓器不全を起こす。致死率は30~70%と高く、感染症法で全数把握疾患と定められている。

国立感染症研究所によると、2023年の死者は97人で、19年の101人に次いで多かった。今年1月1日から3月17日までに患者521人の報告があり、昨年の941人の半数をこの時点で既に超えた。厚労省によると、STSS患者は例年100人前後から多い時で数百人だったが、昨年の941人は記録が残る1999年以降で過去最多だったという。

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